残酷な場面に流れる美しい旋律 日本歌謡の味わいを絡めた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の演出

 使徒に侵食されたエヴァ3号機と、シンジが乗るエヴァ初号機との戦いはテレビアニメ版にも存在するエピソードだが、テレビアニメ版では3号機のパイロットがシンジの同級生、鈴原トウジだったのに対し、『破』ではヒロインのひとりアスカ・ラングレーに変更されている。そればかりではなく、シンジと父ゲンドウのためにレイが計画している食事会を成功させてあげようと、本来レイも候補に挙がっていた3号機のテストパイロットをアスカが自ら買って出るドラマが背景にあり、そんなアスカのいじらしさに観客の共感が集まっているところへ悲劇が起きるのだ。シンジの制御を離れた初号機が3号機を一方的に蹂躙し、その凄惨な光景をネルフ本部の職員たちが言葉もなく凝視する場面に、「今日の日はさようなら」がアコースティックに流れる。

 友達の素晴らしさと友情の美しさを歌い上げる歌詞が胸を打つ「今日の日はさようなら」は、春の卒業シーズンに多く歌われてきた楽曲だ。大切な友人のアスカが乗っていると分かっている3号機が、文字通りバラバラにされるのを止められないシンジの悲痛な叫び声と、児童合唱団のコーラスを加えた林原めぐみの静かなヴォーカルのマッチ感。この衝撃のシーンの先にも、観客の心を震わせるドラマがラストに向けて幾重にも待ち構えているのが『破』の面白さだ。『序』にはなかった、日本歌謡の味わいを絡めた演出を是非とも堪能して頂きたい。『破』の劇中で使われる歌謡曲に触れていない世代の人が観ても、心に刺さる“何か”がきっとあるはずだ。

■のざわよしのり
ライター/映像パッケージの解説書(ブックレット)執筆やインタビュー記事、洋画ソフトの日本語吹替復刻などに協力。映画全般とアニメを守備範囲に細く低く活動中。

■放送情報
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 TV版』
日本テレビ系にて、1月22日(金)21:00〜22:54放送
原作・脚本・総監督:庵野秀明
監督:摩砂雪、鶴巻和哉
声の出演:緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、山寺宏一
(c)カラー
公式サイト:https://www.evangelion.co.jp/2_0/ 
公式Twitter:@evangelion_co

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