TBSスター育成プロジェクトの狙いとは テレビ局主導の“本気のドラマ作り”の一環に?

 「私が女優になる日_」の文字と、『凪のお暇』の黒木華、『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音、『この恋あたためますか』の森七菜、『私の家政夫ナギサさん』の多部未華子、『逃げるは恥だが役に立つ』の新垣結衣が次々に映し出されるCMを見て、「そう来たか!」と膝を打つ思いをした人も少なくないのでは。

 これは、『半沢直樹』や野木亜紀子ドラマ、女性の支持が高い火曜ドラマ枠など、ドラマ作りに定評があるTBSが、田辺エージェンシー、秋元康と共に手掛ける女優発掘・育成プロジェクトだ。言ってみれば、人気料理人が、素材となる美味しい野菜を求めて自ら食べ歩き、生産農家を探す、あるいは料理人自らが家庭菜園で野菜を育ててしまうようなものだろう。

 コロナ禍の中、改めてドラマ作りの巧さが際立っていたTBSが、局をあげて新人発掘・育成をしようという発想に行き着いたのは、自然な流れのようにも見える。とはいえ、前例のない大掛かりなオーディションでもある。なぜなら、かつては「新人女優の登竜門」と言われたNHK連続テレビ小説(通称、朝ドラ)でも、近年はキャスティングが主流となっているし、「オーディションで選ばれた」ヒロインですら、『カムカムエヴリバディ』の上白石萌音、川栄李奈のようにすでに実績ある有名女優ばかりになっているのが実情だ。

朝ドラで新人がヒロインを務めるケースは稀に

『カムカムエヴリバディ』ヒロインを務める上白石萌音と川栄李奈と深津絵里(写真提供=NHK)

 視聴者側からすれば、例えば『あまちゃん』の能年玲奈(現・のん)のように、全く手垢のついていないピカピカの新人を見たいという思いは、いつだってある。しかし、それがままならない理由は実にシンプルで、全くの素人を育てるのは、非常に手間がかかるから。

 NHKは特に女性記者の過労死もあったことから、「働き方改革宣言」を早期に打ち出し、それに伴い、朝ドラも週6日から週5日放送に切り替えた。ただし、働き方改革の影響ばかりではなく、朝ドラに携わってきたプロデューサーたちに話を伺うと、そもそも昔は「電動紙芝居」と揶揄されたこともあったくらい、作品によっては伝統的なフォーマットに流し込むスタイルでサクサク作られたものもあったようで、それに比べて低迷期と言われる2000年代後半くらいからはむしろ作品の情報量・密度が高まり、非常に手間をかけて作られるのが当たり前になっている。だからこそ、手間をかけて作られる中でも限られた時間内できっちりこなせる実力ある女優が必要とされるのだ。

 そうした事情から朝ドラではオーディションで選ばれた新人がヒロインを務めるケースは稀になっていて、「フレッシュな新人を見つけたい」視聴者は本役に入る前の子役時代にその望みを託すところもあった。しかし、近年では子役もまた、実績ある有名子役が演じることが中心になっている。安定感抜群である一方、やはり寂しさは否めない。

関連記事