吉沢亮、自身の実力を示した2020年 大河ドラマ『青天を衝け』に向け最高の助走に
日本アカデミー賞にて最優秀助演男優賞を受賞した『キングダム』(2019年)での漂/エイ政役とは打って変わって、コメディ、シリアス、ヒューマンドラマ、青春モノーーなど、異なるジャンルの作品において、“いろんな意味”で危うい存在の青年を演じた吉沢亮。いずれの演技も素晴らしく、俄然、2021年の大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)で主演を務めることにも期待を持てる1年となった。
『一度死んでみた』と、杉咲花とのダブル主演作『青くて痛くて脆い』は対照的な作品だ。と、同時に、吉沢が演じたのも対照的な人物であった。前者では、あまりの存在感の無さから「ゴースト」と呼ばれている青年役を。青春物語でもある後者では、タイトルどおりの“青く”、“痛く”、そして“脆い”若者を演じた。
端的にいうならば、『一度死んでみた』はコメディであり、『青くて痛くて脆い』はミステリー要素のあるシリアスな作品だ。吉沢のバイオグラフィーを振り返ってみれば、コメディもシリアスもいけることは承知済みのこと。しかし、こちらの予想をはるかに超えてきた。“存在感の有る男(吉沢亮)”が、“存在感の無い男”をリアルに演じていたのは面白かったが、この実現は、周囲の俳優たちの助けもあってのことでもある。だが、『青くて痛くて脆い』での吉沢の演技の素晴らしさは突出していた。
同作で吉沢が演じたのは、先に述べたような、タイトルを体現した人物。劇場で鑑賞していて、息を止めながら冷や汗を流してしまったシーンがある。それは吉沢演じる楓が、久しぶりに再会した秋好(杉咲花)から大学の講堂で詰め寄られるシーン。おそらく多くの方が“恐怖のシーン”として挙げるものだろう。物事の核心を突かれ、自分の弱点を叩かれ、あげく「気持ち悪い」とまで彼は言い捨てられる。並の人間であれば、立っていられないようなシチュエーション。ここで吉沢の顔がスクリーンいっぱいに映し出されるのだが、その目の色の微かな震えと、頬のひきつるさまは見ていられないほどだった。狼狽する姿を分かりやすく表現したり、セリフで内面を吐露する方法もあったはず。だかそうはせず、カメラはそのシーンの核となるものを、吉沢の顔のアップに託した。ここだけを見ても、いかに彼が作り手たちから信頼されている存在なのかが伝わってきたものである。