『恋あた』が示した恋愛ドラマの新たな形 中村倫也×仲野太賀が演じた2人の男性像を考える
皆さんは恋愛ドラマに何を求めるのだろうか。現実世界ではありえないような恋、例えば異国の地に不時着してイケメン将校に助けてもらったり、いつかに一目惚れしたイケメンドS医師に再会するためにナースになったり。“どれだけありえない展開になっても、絶対に主人公と主人公の好きな人が結ばれる恋物語”。疲れたときとか、単純に胸キュンしたいときはそういう“おとぎ話”を求めてしまう。しかし、一方でリアリティのある恋物語を“画面の向こう側”にも欲してしまう。なぜなら、私たちは現実で実際に自分が主人公となって、恋愛をしたりしなかったりするから。誰かが教えてくれなかった恋愛の選択肢や方法が、そこで一例として描かれてもいるわけだ。
胸キュンハッピードラマが流行る一方で、近年はそんな風に自分の現実と照らし合わせて共感し、何か新しい視点といった学びを得られるリアリティ指向のドラマも一層増えてきた。そんな中、『この恋あたためますか』(TBS系)が世間の注目を浴びている。
スイーツに関して秀でた主人公の樹木(森七菜)が、その才能を浅羽社長(中村倫也)に買われ、そこから浅羽へ恋心を募らせる。まさに「コンビニ店員がコンビニの社長に恋をする」という韓国ドラマばりに王道な格差設定。そこに樹木が配属されるスイーツ課の先輩であり浅羽の元カノの里保(石橋静河)、そして樹木に最初からアタックしまくるスイーツ職人の新谷誠(仲野太賀)を巻き込んだ四角関係という要素が加わってくる。
非現実系恋愛ドラマの設定でリアルな展開を描いていた、が……
しかし、これほどまでストレートに主人公がドラマ中盤でこっぴどく、はっきりとフラれる作品も珍しい。会社を追い出された浅羽に、一度は諦めて自己処理していた恋心を思わず伝えてしまった樹木。その「好き」という言葉がしっかりと相手に聞こえてしまい、浅羽から告白の答え「ごめん」を受ける羽目になってしまう。非現実的な恋愛ドラマの設定で始まったと思いきや、そこに本作のリアリティ度の高さが見られた。
告白を断った背景には浅羽が元カノの里保と再び付き合い始めたこともあった。彼らは以前、結婚も考えたという大人な付き合い方をしていて、若干21歳の樹木の恋心とは少し違う種類のものだ。デートの仕方をとっても、浅羽と樹木は合わない。価値観も、会話も少し距離がある。つまり、単純に浅羽と樹木は現実的に合わない相手なのだ。
しかし、最終回を目前にして突如「俺には君が必要なんだ!」と浅羽が樹木ちゃんに告白し返す。これは非現実的な恋愛ドラマの「くっつくはずのない2人でも、最終的には主人公の意のままに結ばれる」という定番の流れそのものじゃないか。ええ、リアル指向じゃなかったの!? やはり設定通り夢いっぱい系なの!? と、ここで筆者は度肝を抜かれた。
本作は早い段階で2カップルが成立。こういう演出は、大概片方が納得していなくて、結局本当に好きな人の元へ行ってしまうイベントの布石でしかない。ところが、本作の場合それが一味違った。というのも、2カップルそれぞれが本当に良い感じで、収まるべくところに収まっていたからだ。