水川あさみがスクリーンで輝く 『喜劇 愛妻物語』『ミッドナイトスワン』『滑走路』での存在感

 そんな水川の主演映画にして出演最新作の『滑走路』。本作は水川だけでなく、浅香航大、寄川歌太の三者が主人公だ。三者それぞれの演じる人物が紡ぐ三つのエピソードが、やがて一つの物語へと繋がっていく構成となっている。この物語で水川が演じているのは、将来的なキャリアと社会不安に悩まされている30代後半の切り絵作家・翠。子どもを欲する自身の想いを自覚しつつも、高校の美術教師である夫(水橋研二)との関係性に違和感を抱いている人物だ。

『滑走路』(c)2020「滑走路」製作委員会

 本作における水川の演技は、先に述べた二作とは大きく異る。それは“発散”するものではなく、かぎりなく“抑制”されたもの。つまりこちらでは、感情の発露というものが際立って見えるわけではないのだ。声の震えや、ポーカーフェイスとも思える顔に静かに生まれる表情といった、聞き逃してはならない、見逃してはならない瞬間に彼女の感情は表現されている。妻として、女性として、ひとりの人間としてーー翠という人物のアイデンティティーが揺らぐ瞬間が、ここに収められているのだ。その発語、その一挙一動から、耳/目が離せない。

 今年の水川といえば、『グッドバイ〜嘘からはじまる人生喜劇〜』にも出演していた。ここ数年はテレビ俳優という印象が強かったが、ここで考えを改めさせられることになった。彼女は談笑しながら家のテレビで見るべき存在ではなく、暗闇の中でじっと見つめるべき存在なのではないかと。スクリーンこそが、彼女の本来の居場所なのではないのかと強く思う。2021年もスクリーン上で躍動する水川の姿を見上げたい。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『滑走路』
全国公開中
出演:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、坂井真紀
監督:大庭功睦
脚本:桑村さや香
原作:萩原慎一郎『歌集 滑走路』(角川文化振興財団/KADOKAWA刊)
主題歌:Sano ibuki「紙飛行機」(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
配給:KADOKAWA
(c)2020「滑走路」製作委員会

『ミッドナイトスワン』
全国公開中
出演:草なぎ剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
監督・脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ
(c)2020「MIDNIGHT SWAN」FILM PARTNERS

『喜劇 愛妻物語』
原作・脚本・監督:足立紳
出演:濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、夏帆、大久保佳代子、ふせえり、光石研
制作:AOI Pro.
配給:キュー・テック/バンダイナムコアーツ
(c)2019『喜劇 愛妻物語』製作委員会

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