泉澤祐希、途中登場でも『エール』を背負える人に 典男の背景を滲ませる佇まい

 今回泉澤が演じた典男は、限られた時間の中で、複雑な生い立ちや兄への負い目、再会の喜びなど表現しなければならない感情がたくさんあった。さらにどれもが現代ではなかなか体験しないような壮絶なものであり、演技力がものをいうシーンばかりである。しかしそんな中でも、流暢な福島弁を披露し、福島で床屋の亭主として身を立て、家族を持っている男というバックボーンを表した。鉄男と再会した折には、涙を流しながら複雑な心中を吐露するなど、心を揺さぶる熱い芝居を見せる。

 印象深いのは、鉄男がイワシを好きだったことを覚えており、食卓を囲む中でイワシを分け与えようとする場面。久しぶりに会った兄弟がお互いを思いやり、不器用ながらも兄弟愛を伝え合おうとする微笑ましいシーンとなった。こうした何気ない日常の一コマさえ、愛しく暖かいものへと表現する真っ直ぐな芝居は、泉澤の持つ演技力のたまものだろう。

 典男との再会で、鉄男の心のわだかまりがスッと溶ける。進まなかった筆も進むようになり、今まで受けずにいた仕事も引き受けるようになった。これまで久志のように、背景が語られることのなかった鉄男の辛い生い立ちが描かれたが、ここから鉄男はさらに前をむき、大きく前進していくのであった。福島三羽烏が苦難を乗り越えながらそれぞれの道を歩み、活躍していく姿に胸が躍る。

■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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