『ハリー・ポッターと賢者の石』が夢想させる“ここではないどこか” 当時の熱狂を振り返る

 実際、本作の著者J・K・ローリングは執筆当時、生活保護を受けていたシングルマザーで、極貧生活の中一杯のコーヒーで粘って物語を書き進めたという誕生秘話がある。どんなに実際の生活が苦しく、希望が見えなくとも、想像力というものはたくましく創作はいつだって自由で何にも囚われず羽ばたいていけるのだ。

 当時の著者の境遇を思うと、本作内で出てくる魔法の数々はきっと自身の置かれている状況を束の間忘れさせてくれただろうし、ハリーが仲間たちと力を合わせて敵と対峙し、何より自身に打ち勝っていく姿に原作者自身がきっと鼓舞され励まされていたのではないだろうか。だからこそ、本シリーズは単なる魔法使いの御伽噺に終わらず、たくさんの示唆と教訓を含み、多くの人を勇気づけこの世界観に引き込むのだろう。

 1作目では、ハリーが会う人会う人に両親を亡くした理由として「名前を呼んではいけないあの人(=ヴォルデモート卿)」の存在を聞かされ、その詳細な姿が全く明かされていない中にあってもその絶対悪や気味悪さが際立ち、よりベールに包まれた畏怖の対象としての存在感が植え付けられる。怪しい人物が現れるも、実際には意外な人物がヴォルデモート卿の内通者で、ハリーとの対峙シーンではいよいよ因縁の対決の幕開けとなる。この闘いが一筋縄にはいかず、すぐに決着のつくものではないことを印象付ける。

 また、本作は1シリーズごとに1年間の学校生活が描かれている。1作目を観終わる頃には我々もホグワーツでの年間恒例行事を一通り体験し終え、さも自身もそこに通う学生の1人かのような気持ちを味わえるのも楽しいところだ。1作目でハリーの生い立ち、ホグワーツでの学校生活や習慣、ヴォルデモート卿との関係性、そして友人関係、特徴的な先生陣などを全項目抑えられたところで、これからまだまだ続くハリーとの次なる冒険に向けてもう胸を弾ませている自分がいることに気付いてしまうのだ。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『ハリー・ポッターと賢者の石』
日本テレビ系にて、10月23日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大
原作:J・K・ローリング
監督・製作総指揮:クリス・コロンバス
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、リチャード・ハリス、マギー・スミス、アラン・リックマン、トム・フェルトン
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