“映画”から“一つの事態”へ 寄せられた論点と作品の先進性から、実写版『ムーラン』の価値を探る

 本作は、ハリウッド娯楽大作としてアジア人、アジア系の人々でキャストが占められている稀有なアメリカ映画である。そして、女性の生き方の可能性を広げようとする進歩的なテーマを持っている。今回の多方面からの批判は、それぞれに正当性が存在するが、それは本作の先進性そのものを台無しにしてしまうような性質のものではないだろう。そしてディズニーのアニメーションを実写映画化した企画のなかでは、最も意欲的な姿勢で本格的な実写映画としての魅力を持っている。それだけに、この作品が数々の批判によって敬遠される向きがあるのは残念でならない。

 そして、もちろん寄せられた数々の批判も無視されてはならない。本作はその意味で、批判など多様な見方も含めて、単なる映画から、作品の内外が構成する一つの世界であり一つの事態へと変化したのである。10年後、20年後に本作はさらに変化していくことだろう。そのダイナミックな構図をも含め、『ムーラン』がユニークで重要な存在であることは間違いない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『ムーラン』
ディズニープラス会員、プレミアアクセスで独占公開中
※追加支払いが必要。詳しくはdisneyplus.jpへ
監督:ニキ・カーロ
出演:リウ・イーフェイ、コン・リー、ジェット・リー、ドニー・イェン
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
日本語吹替版声優:明日海りお、小池栄子
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