江口洋介、上白石萌歌、志尊淳が生み出すハーモニー “名曲”が心に染みる『天使にリクエストを』

「歩き疲れては 夜空と陸との隙間に潜り込んで 草に埋もれては寝たのです」
(「生活の柄」作詞:山之口貘、作曲:高田渡)

 塩見三省演じる元ホームレスの男・武村のリクエストにより、江口洋介演じる主人公・島田が歌ったのは、高田渡の「生活の柄」。この曲の温かさは、今もなお、働く人々の心にじんわりと染み渡る。桜の木の下で、嬉しそうに小説を書いていた、一人の名もなき男の人生をそのまま肯定する。

 「無縁坂」「アカシアの雨がやむとき」、そして「生活の柄」と、江口洋介、上白石萌歌が1話に1曲のペースで歌う、登場人物たちの人生を彩る歌の数々も、土曜ドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』(NHK総合)の魅力の一つだ。名曲が、江口と上白石の真っ直ぐな声を通して、現代によみがえる。その時代の記憶と共に。そして、我々の心を掴んで離さない、どこか哀愁ある曲調は、その世界に佇む人が抱える孤独まで浮き彫りにする。

 いつも誰かの死に心を痛めずにはいられない、息詰まるコロナ禍の最中に生まれた土曜ドラマ『天使にリクエストを~人生最後の願い~』は、それ自体が味のある昭和の歌のようだ。『なつぞら』(NHK総合)の大森寿美男がオリジナル脚本で描いたのは、終末期患者の「人生最後の願い」を叶えるために奔走する、異色の探偵とその仲間たちによる救済のロードムービー。息子の死をきっかけに心に大きな傷を負い、立ち直れず自暴自棄になっている元マル暴の探偵・島田、道を踏み外しそうになったところを島田に救われて以来、彼に寄り添う亜花里(上白石萌歌)、時にぶつかりながらも訪問看護師として彼らを的確にアシストする寺本(志尊淳)という、一癖も二癖もある個性豊かな面々が、患者たちと向き合っていく。

 第1話、第2話における、『修羅雪姫』や『女囚さそり』シリーズといった数々の“修羅の道”を潜り抜けてきたイメージの強い女優・梶芽衣子が演じる幹枝と、かつて自分が捨てた息子かもしれないヤクザの組長・山本(六平直政)との間で交わされる会話の数々は、もうそれだけで味わい深い。親子かもしれない2人の緊迫したやり取りが繰り広げられる舞台となった、ぼったくりバーのママを演じる渡辺真起子がやたらと気にするポスターにどんなドラマが隠されているのだろうと思いを馳せたり、病院の屋上でスキットルを島田に手渡そうとする倍賞美津子演じる和子は、一体何者なのだと思ったり。不思議と「夜」や「昭和」といった雰囲気が似合ってしまう上白石萌歌という稀有な若手女優含め、このドラマの女優たちは実に魅力的だ。

 幹枝(梶芽衣子)の子供探しの物語は、幾重にも折り重なった切ない「嘘」の物語だった。迫りくる死を目前にして、息子かもしれない男に問われ語った彼女の自分史は、必ずしも全てが真実とは限らない。幹枝が息子を捨てた本当の理由は明確には語られないし、恐らく息子の本当の父親は、初恋の人ではなく、テキヤをしていた義理の父親なのだろう。

 「それだけは違う」と渾身の力を込めて言う母親に、山本は少し悲しそうな目をしただけで、何も言わなかった。会ったばかりの母を思うゆえの「自分は息子ではない」という山本の嘘、そうとは知らない島田たちの、幹枝の身体の限界を慮った、第2候補の医師を巻き込んでの嘘。そして、それらの嘘を全て受け止めた母親・幹枝自身の嘘。ありとあらゆる嘘をまるごと包み込んだのは、彼女が歌ってほしいとリクエストした名曲「アカシアの雨がやむとき」だ。