『半沢直樹』と『梨泰院クラス』、日本/韓国のヒットドラマで“土下座”を描く背景とは?

エンタメで「土下座」を求める背景

 改めて、「土下座」とは一体何なのか。2作が人気を得たのは、本来「弱者」である者が巨大な権力に立ち向かい、復讐を遂げる「下剋上」をわかりやすくカタチにするものが「土下座」であったからだろう。

 しかし、そもそも土下座を見て必ずしもスッキリするかというと、そうでもないという呟きもSNSでは見られる。やはりそこには「パワハラ」を思わせる不快感も漂うためだろう。
だからこそ、『梨泰院クラス』では、「土下座」を巡って結ばれてきた悪縁が、後に次に行くための、恨みを手放すための儀式的意味合いに変わる。むしろこの場合、「土下座」によって解き放たれたのは、セロイの方だったように見える。

 また、『半沢直樹』続編における「土下座」では、相手に謝意があるかどうかはともかくとして(本当はそれが肝心なのだが)、一番受け入れがたい屈辱を与えたという事実によって視聴者が溜飲を下げるための儀式になっている点は変わらない。

 しかし、前作と異なり、寸止めが繰り返されたり、珍妙なバリエーションができたりと、土下座そのものがまるでプロレス技を披露するような「形式美」と化していった点は大きな変化だろう。だからこそ、前作に比べて続編では土下座に悲壮感がなく、視聴者はそれをエンタメとして容赦なく楽しむことができたのだろう。

 そして、わざわざ儀式化、エンタメ化してまでも「土下座」を求める心情には、残念ながら世の中に対する鬱憤・不満が影響しているはずだ。

 不都合なことに対しては「記憶にない」ととぼけ、「大変遺憾」と他人事のように語り、説明はスルーし、謝罪なのかどうかわからない言葉を述べ、なんならブログで説明して終了というのが、現実の世界だ。

 それを「エンタメ」というパッケージの中での爽快感に求めざるを得ない現状を考えると、少々複雑な心境でもある。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■配信情報
日曜劇場『半沢直樹』
Paraviにて全話配信中
出演:堺雅人、上戸彩、及川光博、片岡愛之助、賀来賢人、今田美桜、池田成志、山崎銀之丞、土田英生、戸次重幸、井上芳雄、南野陽子、古田新太、井川遥、尾上松也、市川猿之助、北大路欣也(特別出演)、香川照之、江口のりこ、筒井道隆、柄本明
演出:福澤克雄、田中健太、松木彩
原作:池井戸潤『ロスジェネの逆襲』『銀翼のイカロス』(ダイヤモンド社)、『半沢直樹3 ロスジェネの逆襲』『半沢直樹4 銀翼のイカロス』(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎ほか
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎、青山貴洋
製作著作:TBS
(c)TBS

『梨泰院クラス』
Netflixにて配信中
出演:パク・ソジュン、キム・ダミ、ユ・ジェミョン ほか
原作・制作:キム・ソンユン、チョ・ガンジン

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