吉田鋼太郎の松永久秀は従来のイメージを覆すリアリストに 『麒麟がくる』総集編で注目

 ついに「麒麟」が帰ってくる! 新型コロナウイルスの流行により撮影休止を余儀なくされ、6月7日に放送された第21回「決戦!桶狭間」を最後に放送が途絶えていたNHK大河ドラマ『麒麟がくる』が、来る8月30日より、いよいよ放送を再開する。それに合わせて8月9日からは、3週にわたって「総集編」と題された、これまでの『麒麟がくる』全21回のダイジェスト版が放送されることになっている。

 「本能寺の変の首謀者」、あるいは「信長を殺した男」として、今日でも広く知られている戦国武将・明智光秀を、最新の研究に基づいた新たな解釈のもと、従来のイメージとは異なる人物として描き出そうとする『麒麟がくる』。その意欲的な姿勢は、主人公「明智光秀(十兵衛)」を演じる長谷川博己をはじめ、「斎藤道三」を演じた本木雅弘、「織田信長」を演じる染谷将太など、ある種「意外」とも言えるキャスティングにも表れており、それは現在までのところ、俳優たちの熱演も相まって概ね成功していると言えるだろう。

 今後さらに、すでに登場済みではあるものの、いよいよ存在感を増していくであろう風間俊介演じる「松平元康(のちの徳川家康)」と佐々木蔵之介演じる「藤吉郎(のちの豊臣秀吉)」が物語の本筋に加わり、よりいっそうドラスティックな展開を迎えていくであろう本作だが、今回の「総集編」を観るにあたって、改めて注目してほしい人物がいる。吉田鋼太郎演じる「松永久秀」だ。

「梟雄」ではなく「理想主義者」の松永久秀

 『麒麟がくる』の物語は、天文16年(1547)から始まる。当時まだ珍しかった鉄砲を調達するため、主君・斎藤道三の許しを得て、美濃から堺の町にやってきた十兵衛は、ひょんなことからある男と知り合い、鉄砲の入手に成功する。その男の名は松永久秀。当時権勢を誇っていた三好家の当主・三好長慶(山路和弘)の側近中の側近であり、畿内の諸勢力を牛耳る実力者として、京では知られた大人物だ。今日では、下剋上を成し遂げた残忍で荒々しい大悪党(梟雄)――伊勢宗瑞(北条早雲)や斎藤道三と並ぶ「戦国の梟雄」のひとりとして数えられることも多い久秀。けれども、『麒麟がくる』における久秀は、依然としてそのような「悪党」、あるいは「信用のおけない人物」としての印象は見られず、むしろ豪放磊落な好人物であり、十兵衛と同じく「戦乱の時代の終わりを願う」、ある種の「理想主義者」として描かれているのだった。これはいったい、どういうことなのか。

 そこには、近年の歴史研究における、松永久秀像の変化も少なからず関係しているようだ。去る6月3日に放送された『歴史秘話ヒストリア』(NHK総合)は、「戦国のナンバー2 天下を動かした男」と題して、松永久秀を大特集。「将軍殺害」「主君殺害」「大仏殿の焼き討ち」という「3悪」を行った久秀の「梟雄」イメージは、あくまでも江戸期に書かれた『常山紀談』や講談、浮世絵などによって「作られた」ものであり、むしろ主君・三好長慶を天下人に押し上げた忠臣として、久秀の活躍を検証し直してみせたのだった。「応仁の乱」以降、混乱を極める京にあって、軍事政治両面で長慶を助けながら、さまざまな調整や交渉を行ってきた知将であり、長慶亡き後は、長慶の甥である義継を支えながら、やがて「三好三人衆」と激しく対立していった久秀。三好家の存続を願う彼が最終的に選んだのは、凶刃に倒れた将軍・足利義輝の弟・義昭を奉じて上洛せんとする信長との同盟だった。

 ちなみに、『麒麟がくる』の撮影現場から同番組にコメント出演した吉田鋼太郎は、自身が演じる久秀について、「エピソード先行で、実は謎に包まれている武将」としながら、次のように語っていた。

「鉄砲は戦争をするためのものではなく、戦争をやめるものだという見解を持っていた久秀は、先見の明を持ったリアリストだったのではないか」

 奇しくもそれは、同じく「鉄砲」の威力に魅せられながら、それを「麒麟が舞い降りるような」戦乱のない世の中を生み出すために用いようとする光秀の姿と重なり合う。リアリストであると同時に、「太平の世を願う」ある種の「理想主義者」でもあった久秀と光秀は、今後『麒麟がくる』の物語の中で、どのようにその関係を深めてゆくのだろうか。そして、やがて彼らを従えることになる信長は、2人と何を語り合いながら、どんな関係を築き上げていくのだろうか。それが恐らく、『麒麟がくる』後半戦の、大きな見どころのひとつとなっていくのだろう。

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