バイプレイヤーたちにとって脅威の存在に? 視聴者を瞬時に釘付けにする“役者”岡崎体育

『僕はどこから』で見せた「本当にヤバいヤツ」

 岡崎体育が演じたのは、暴力系の役に欠かせない名バイプレイヤー・高橋努が演じる「講談会系東宮寺組会長の子飼い・山田龍一」の子分・駿。

 駿は龍一を「兄ちゃん」と言うが、実は幼少時に親に捨てられ、預けられた施設で出会った龍一を、兄のように慕っているだけだった。そんなピュアな駿を龍一は利用し、血生臭い事件に巻き込んでいく。

 笑顔で楽しそうに暴力を振るったり、人を殺したりと、怖いほど欲望のままに動く無邪気で残酷な駿は、岡崎体育の愛嬌も相まって、まるで『ドラゴンボール』の魔人ブウのようだ。「本当にヤバいヤツ」ということが説明不要によくわかる。

 しかし、「兄ちゃん」の言葉を信じ切って、命令に忠実に従う素直さは、忠犬的でもあり、徐々に可愛く見えてきてしまった。そんな矢先、駿は龍一の「兄弟ごっこも終わりだ」「何の役にも立たないウスノロ」という本音を聞いてしまい、深く傷つき、それでも兄への変わらぬ愛情を口走りながら息絶える。

 しかも、自身が切ない最期を迎える直前、最も緊迫したシーンで自分に向けて銃をかまえた藤原智美(間宮祥太朗)に対して「間宮祥太朗に似てるって言われない?」とナチュラルかつ唐突に聞くシーンは、間違いなくアドリブだったろう。

 この緊張と緩和のスイッチの切り替えには、思わずうならされた。恐怖と笑い、愛おしさ、悲しみへと、視聴者の気持ちは岡崎体育一人に振り回され、ぐちゃぐちゃにかき乱されてしまった。

 その演技の魅力は、曲作りをする上で映像作品を観まくるなどにより、磨かれていった観察力や、自身でMVの撮影・編集も自ら手掛け、動画配信も行うプロデューサー目線・演出家目線などが総動員されたものではないかと思う。

 余談だが、昭和7年生まれの我が父も、『まんぷく』に彼が登場するや、「ちょっと気持ち悪いヤツだなあ」と妙に気にしていたのだが、ジワジワと「なんかこいつ、ちょっと面白いな」に変わり、若い世代を中心に人気という情報を与えたところ、すっかり夢中になって「たいしたもんだなあ」と感嘆していた。

 10代から80代まで共通認識として本能的に「ヤバいヤツ」「不気味なヤツ」と感じさせ、その上で笑いを与え、愛着まで持たせてしまう岡崎体育。出番の長短に関わらず、視聴者の視線を瞬時に釘付けにし、話題をかっさらってしまう彼の「役者」としてのあり方は、もしかしたら名だたるバイプレイヤーたちの脅威にもなりかねない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

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