演者の個性と時代性が強く表れる? 歴代大河ドラマで描かれた帰蝶像

 例えば、信長を高橋英樹、光秀を近藤正臣、秀吉を火野正平という若手俳優陣が大抜擢された1973年の『国盗り物語』は、田中角栄の日本列島改造計画を背景にした高度経済成長の荒々しい勢いが刻印された大河ドラマだ。本作で帰蝶(濃姫)を演じたのは松坂慶子で、マムシの娘にふさわしい強さと大人の色気を見せており、本能寺の変では薙刀を振り回して戦う姿も再現されている。

 『麒麟がくる』の帰蝶は元々、沢尻エリカが演じる予定だったが、もしも沢尻・帰蝶が実現していたら松坂・帰蝶のような存在感を見せていたのかもしれない。ある種、帰蝶のスタンダードと言えるだろう。

 一方、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』で帰蝶を演じたのは菊池桃子。こちらは現代人が共感できる等身大のお姫様といった感じである。信長役の緒形直人を筆頭に民放の若者向けドラマで活躍する俳優が多数出演していたこともあってか、菊池・帰蝶は当時の恋愛ドラマのヒロインのようで、なにかあるとすぐに信長とケンカする。里帰りを許してくれない信長に対し「この帰蝶は、未だに人質なのでござりますか!」「このお城に閉じ込めたまま死ぬまで出さぬおつもりにござりますか」と信長に激高する場面を見ていると、現代の夫婦ゲンカみたいである。

 帰蝶には男勝りの強さだけでなく、正室(正妻)だが子どもがいない境遇に苦しんでいたという弱い部分を抱えており、菊池・帰蝶は後者の部分が強く打ち出されていた。おそらく大河ドラマに現代的な女性の悩みを持ち込むことで恋愛ドラマを観るようなF1層を取り込もうとしたのだろう。

 仲間由紀恵が山内一豊(上川隆也)の妻・千代を演じた2006年の『功名が辻』は、信長を舘ひろしが演じ、帰蝶を和久井映見が演じた。和久井・帰蝶はビジュアルこそ菊池桃子が演じたかわいいお姫様だが、思考は松坂・帰蝶に通じる男と対等に渡り合う強い女というハイブリッドタイプ。「戦のことはわかりません」と一歩引いた姿勢を見せながらも、要所々々で的確な助言をする頭のキレる女性で、彼女もまた本能寺の変で薙刀を持って戦い、最後は討ち死にする。

 つまり、帰蝶の持つ二面性(強さと弱さ)がしっかりと描かれていたのが和久井・帰蝶だったと言えるだろう。

 男まさりの気の強さと、女としての弱さ。この両極で揺れる姿こそが帰蝶の持ち味だと過去の大河ドラマを観ているとよくわかる。

 対して『麒麟がくる』の川口・帰蝶は、とてもニュートラルだ。彼女は普通のお嬢さんで、生き残るためにあえて母を演じている。その姿は信長を影から操っているようにも見えるが、母として振る舞うことと引き換えに彼女が傷ついていく姿も描かれている。

 果たして川口・帰蝶は「本能寺の変」をどのような形で向かえるのか? 8月30日からの放送再開が楽しみである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
「『麒麟がくる』まであと3週! これまでの名場面すべて見せます」
総集編(1)旅立ち
8月9日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム

『麒麟がくる』まであと2週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(2)動乱
8月16日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム

『麒麟がくる』まであと1週! これまでの名場面すべて見せます
総集編(3)誇り高く
8月23日(日)
20:00~20:45/NHK総合・BS4K ※土曜の再放送あり
09:00〜09:45/BS4K
18:00〜18:45/BSプレミアム

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