ポスターデザインから舞台のロケ地まで 中国とジブリ作品の歴史を紐解く

特殊な中国版ポスターのデザイン

 『となりのトトロ』および『千と千尋の神隠し』の中国公開は日本でも話題になったが、その大きな理由の一つは中国版ポスターのデザインにある。中国人デザイナー・黄海によるこれらのポスターは、映画のストーリーをすでに知っている者に対して作品の魅力を改めて訴え掛ける内容になっている。

 これらのポスターを見ると、中国ではジブリ映画の知名度が非常に高く、一昨年と昨年の「初上映」は過去に何らかの形で映画を見た大多数の人々に対する「再上映」的な意味を持つことが分かる。子どもの頃に『千と千尋の神隠し』を観た人が大人になって再び、あるいは自分の子どもを連れて観に行くのは、日本と似ているかもしれない。

 中国のポスターといえば、『千と千尋の神隠し』には実写版ポスターがある。中国語吹き替えを担当した俳優らが映画のワンシーンを再現しており、千役の周冬雨がハク役の井柏然に手を引かれて走るシーンや、カオナシ役の彭昱暢と一緒に列車に乗っているシーンなどがある。実写版ポスターは中国では賛否両論だったが、もし『千と千尋の神隠し』を舞台で上演するならこういう絵になるだろうかと思わせた。

 興味があれば、中国語になるが以下のサイトでポスターの比較を行っているので見てほしい(参考:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1636597467882664007&wfr=spider&for=pc)。

中国にもジブリの舞台

 中国での『千と千尋の神隠し』人気を表すエピソードの一つに、ロケ地の誤解がある。本作の重要な舞台である油屋のモデルとなった建造物やロケ地は複数あり、特定の場所は存在しないと言われ、日本でも多くの建造物がモデルとして注目された。その中で中国でモデルとして噂されているのが、重慶市にある洪崖洞だ。古風な石造りの建造物が密集し、夜は赤やオレンジのライトが全体に灯り、夜景が特に人気の観光用商業施設だ。いくつもの建物が重なった構造が油屋に似ているとされ、中国ではここも『千と千尋の神隠し』のモデル地の一つと思われているようだ。実際、洪崖洞は重慶の伝統的な建築様式である「吊脚楼」を現代に再現したもので、映画との関係はない。そもそも洪崖洞は2006年に完成しており、2001年公開の映画が参考にできるはずがない。だが、昨年の中国上映の際に洪崖洞は再び話題になり、今でも映画の関連場所として誤解する人が少なくないようだ。また、モデル地ではないと知られながら、油屋によく似た場所としても愛されているらしい。

 日本の映画館が6月下旬から営業を再開し、ジブリ4作品が再上映されるとともに『千と千尋の神隠し』が週間興行成績の1位になったというニュースは中国でも取り上げられている。今のところ映画館再開の目処が全く立っていない中国だが、これを機に中国でも、ジブリの再上映は叶わないとしても、新作映画の公開とともに過去の名作映画を再上映して消えた客足を復活させてほしい。

■阿井幸作
1984年7月生まれ、北海道釧路町出身。2007年から中国北京市在住。ライター、翻訳家。中国の最新のミステリーやサブカルの関連情報を現地から日本に紹介する。翻訳ミステリー大賞シンジケートでコラム・中国ミステリの煮込みを連載。訳書:『あの頃、君を追いかけた』』(九把刀・著/阿井幸作、泉京鹿・訳/講談社)、『知能犯之罠』(紫金陳・著/阿井幸作・訳/行舟文化)。Twitter

■公開情報
『風の谷のナウシカ』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:高畑勲
音楽:久石譲
声の出演:島本須美、納谷悟朗、松田洋治、永井一郎、榊原良子、家弓家

制作:トップクラフト
(c)1984 Studio Ghibli・H

『もののけ姫』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
主題歌:米良美一
声の出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、美輪明宏、森 光子、森繁久彌
(c)1997 Studio Ghibli・ND

『千と千尋の神隠し』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
主題歌:木村弓
声の出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦、小野武彦、菅原文太
(c)2001 Studio Ghibli・NDDTM

『ゲド戦記』
公開中
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
原案:宮崎駿
脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子
監督:宮崎吾朗
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:寺嶋民哉
主題歌:手嶌葵
声の出演:岡田准一、手嶌 葵、田中裕子、香川照之、風吹ジュン、内藤剛志、倍賞美津子、夏川結衣、小林 薫、菅原文太
(c)2006 Studio Ghibli・NDHDMT

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