大河ドラマはかつて若手俳優の登竜門だった 唐沢寿明×松嶋菜々子『利家とまつ』から流れが変化?

 また、『太閤記』には石田三成役で石坂浩二も出演している。石坂は、『花の生涯』『赤穂浪士』にも出演しており、1969年の『天と地と』の上杉謙信役で主演を果たす。合計11作も出演している大河ドラマ俳優だ。

 そして、『太閤記』で信長を演じた高橋幸治の存在も重要である。文芸坐の俳優だった高橋は本作で大人気となり、番組には「信長を殺すな」という投書が殺到したという。翌年の連続テレビ小説(以下、朝ドラ)の『おはなはん』にも出演し、こちらでも人気を獲得。大河と朝ドラが生んだ最初のスター俳優だろう。

 この『太閤記』のキャスティングが、大河ドラマの方向性を決めたと言えるだろう。『おはなはん』で新人女優の樫山文枝がヒロインに抜擢され人気を博したことで、新人女優の登竜門というイメージが朝ドラに定着したように、当時の大河は若手男性俳優の登竜門だった。

 その流れは『独眼竜政宗』の渡辺謙あたりまで続くのだが、やがて2000年代に入ると、当時勢いのあった民放の連続ドラマで活躍した俳優が主演を務めるようになる。その先駆けとなったのが、『利家とまつ~加賀百万石門がたり~』で主演を務めた唐沢寿明と松嶋菜々子だったのではないかと思う。

 物語も戦国武将の夫を支えた妻(女)の物語という側面が強く、その流れが『功名が辻』の仲間由紀恵、『篤姫』の宮崎あおいへと繋がり、「おんな大河」というもう一つの流れを生み出していく。

 一方、現在の大河につながる新しい流れを生み出したのが三谷幸喜脚本の『新選組!』だ。主演が当時SMAPの香取慎吾で、脇を固めるのが山本耕史、藤原竜也、オダギリジョー、堺雅人といったみずみずしい配役。山南敬介を演じた堺雅人は本作で大きく注目され、その後『篤姫』に徳川家定役で出演。そして再び三谷が脚本を務めた2016年の『真田丸』で真田信繁を演じ、ついに主演となる。

 こういった月日を重ねて脇から主演に抜擢される出世魚的な展開は、本編の裏に流れるもう一つのドラマだが、これが2020年の時点で59作もあるのだから、この流れ自体が“大河ドラマ的”だと言えよう。

 いつか「大河ドラマ」を彩った俳優たちとスタッフを主役にした「大河ドラマ」も観てみたいものである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
特集番組『「麒麟がくる」までお待ちください 戦国大河ドラマ名場面スペシャル』
6月28日(日)『利家とまつ』
7月12日(日)『秀吉』
NHK総合にて、20:00〜20:45放送 ※土曜の再放送あり
NHK BSプレミアムにて、18:00〜18:45放送

7月26日(日)
「キャスト・スタッフが明かす大河ドラマの舞台裏」
NHK総合にて、19:30〜20:43放送

『東京都知事選開票速報』
NHK総合にて、7月5日(日)19:59~20:50放送

『ダーウィンが来た!「今こそ見たい!日本の大自然スペシャル」』
NHK総合にて、7月19日(日)19:30~20:43放送

『エール』第1回より再放送
NHK総合にて、6月29日〜(月〜土)8:00〜8:15放送
NHK BSプレミアム、BS 4Kにて、6月29日〜(月〜土)7:30〜7:45放送

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