『アシガール』はジュブナイルドラマの傑作! 黒島結菜が中心にいることで生まれた説得力

 昔のジュブナイルドラマだと、少年少女は大人に知られることなく秘密の冒険を繰り広げるものだが、近年のジュブナイルドラマは大人が優しく物分りが良い。

 『アシガール』と同じように今期、再放送されている『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)も都市伝説のテイストを取り入れたジュブナイルテイストの学園ドラマだが、主人公の高校生たちを優しく見守る父親や教師の姿が描かれている。おそらく少子化もあるのだろうが、思春期の若者と両親は仲が悪いものと思っていた自分にはちょっとしたカルチャーショックである。だが、大人が子供たちを見守る姿をしっかりと描くのは、良質なジュブナイルドラマの基本ではないかと思う。

 また、ジュブナイルドラマは出演俳優も若手中心で、SFやファンタジーの要素が混ざり込むため、一見、チープな子供騙しの作品に見られてしまう。このことを否定的に捉える人も少なくないが、このチープさがもたらす「ごっこ遊び」の手触りこそが、ジュブナイルドラマの肝だと思う。

 例えば『アシガール』なら戦国時代という異世界で恋をして冒険することで唯は大人に成長していくのだが、おそらく人が豊かな内面を持った個を確立するためには、思春期に現実とは切り離された世界で「ごっこ遊び」の時間を正しく過ごすことが必要なのではないかと思う。

 ジュブナイルドラマは、そんな「ごっこ遊び」の世界を追体験させてくれる。だからこそ多くの若い人に観てほしい。

 最後に、本作の脚本を担当した宮村優子は、NHKを拠点に執筆する脚本家で、作品数は少ないものの、良質のドラマを多数手掛けている。代表作は、恩田陸の同名小説(新潮社)を映像化した『六番目の小夜子』(NHK)だろう。鈴木杏、栗山千明、山田孝之、松本まりか、勝地涼、山崎育三郎の出世作としても知られる作品だが、学校に伝わる不思議な言い伝えを題材にした良質の学園ドラマで、これもまた、ジュブナイルドラマの傑作だ。ドラマの再放送に注目が集まっている今こそ、もう一度観たい作品である。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『アシガール』(再放送)
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜放送
出演:黒島結菜、伊藤健太郎、松下優也、ともさかりえ、川栄李奈、石黒賢、イッセー尾形ほか
原作:森本梢子
脚本:宮村優子
音楽:冬野ユミ
演出:中島由貴、伊勢田雅也、鹿島悠(NHKエンタープライズ)
制作統括:内田ゆき(NHKエンタープライズ)、土屋勝裕(NHK)
写真提供=NHK
公式サイト:http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/ashigirl/

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