ハリウッド映画やドラマで“歴史改変もの”増加の理由 3つのトピックと社会的背景から読み解く

 到底観切れないほどの数のコンテンツが溢れている現在、熾烈なオーディエンス獲得競争に打ち勝つため、制作側はより刺激的なコンテンツの制作に走り、オーディエンス側も、より刺激的で大きなどんでん返しを、心のどこかで求めている。それに応える形で、ただ史実を描くだけでなく、実際の出来事さえも変えてしまうという、究極のどんでん返しが生まれたと言えるのではないだろうか。

 これについて、一つの興味深い記事を見つけた。イギリスの大手紙『ガーディアン』で「歴史改変ものの映画が戻っている理由」と題されたそれは、「多くの映画でシナリオが複雑化して画面上で語られていることを鵜呑みにできなくなり、観客はまるで中毒になったかのように、そこに存在しないはずのどんでん返しさえも期待するようになった」(筆者概訳)と書かれていて、まさにその通りだと感じた。

 もう一つの社会的背景として、世の中に出回るフェイクニュースの存在があるのかもしれない。2017年1月のドナルド・トランプ米大統領就任式に関して「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」という表現が使われたことは大きな物議を醸したが、現代の世の中には、フェイクニュースが当たり前のように出回り、人々は何が真実か、あるいは虚偽なのか、正解がわからなくなっている。制作者たちは、それを逆手に取り、たとえ史実に沿わない形だとしても、自分たちの表現したい「もう一つの歴史」を描くことに対するハードルが低くなり、観る側もそれを抵抗なく受け入れられるようになってきているのではないだろうか。

『ハリウッド』Netflixにて配信中

 併せて、例えばNetflixのリミテッドシリーズ『ハリウッド』のように、より強い社会的なメッセージを発するために、改変が使われる場合もある。この作品で描かれている人種やジェンダーなどに代表されるマイノリティが、法的に平等でなかった社会の中で、人生やキャリアを棒に振る脅威に晒されながらも、時代を変えていこうと闘い、そして結果を残していく姿は、現代社会に依然として残る同様の問題に、より強いメッセージを投げかけるものと思われる。

 映画とテレビはその長い歴史の中で、観る人々に様々な夢を与えてきた。ドキュメンタリー作品であればまた話は別であるが、劇映画の根底にある目的は、本来事実を忠実に描くことではなく、観る人を楽しませることにある。そのための手段として、ストーリーが歴史改変を含むものであったとしても、そこに込められた作り手側の明確なメッセージがあり、オーディエンスもまた、実際に起きた歴史を顧みつつ、作品を楽しむことができるのであれば、それは素晴らしいことではないかと思う。

参照

https://www.theguardian.com/film/2019/dec/05/why-alternate-reality-movies-are-making-comeback-la-belle-epoque-jumanji
https://www.theverge.com/2019/8/1/20749061/once-upon-a-time-in-hollywood-quentin-tarantino-sharon-tate-charles-manson-historical-revisionism

■田近昌也
北海道出身。上智大学外国語学部卒。東京でインテリアの営業を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院プロデューサー科を修了。その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

■配信情報
『ハリウッド』
Netflixにて配信中

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