「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来

深田晃司×濱口竜介が語る、「ミニシアター・エイド基金」の成果とこれからの映画業界に必要なこと

その場しのぎにならない継続的な支援を

ーー3億円を達成し、映画館の再開も徐々に始まっていますが、今後も安泰とはまったく言えない状況です。もし、多くのミニシアターがなくなってしまったとしたら、映画界にはどんなことが起きるでしょうか?

濱口:数字のことだけで言えば、2019年に日本で公開された映画は1278本(一般社団法人日本映画製作者連盟より)。そのうち約1000本がミニシアターで上映されています。では、ミニシアターは全国のスクリーン数でどれだけの割合を占めているかというと約1割。なので、ミニシアターがなければ日本の観客はこれだけ多様な映画文化を映画館で享受することがまったくできなくなってしまうわけです。それをどれだけの人が“損失”と考えるかは定かではありませんが、映画の多様性は確実に失われます。では、ミニシアターでかかるような作品はオンライン上映すればいいという意見もあるかと思います。しかし、ミニシアターでかかるような映画は、映画館という場所を必要としている作品が多い。集中力を持って観られる必要がある映画、映画館という環境が必要な映画。それがミニシアターにかかる映画の多くであり、そういった映画体験が失われることがそっくり起きると思います。

深田:極端なことを言えば、私の映画も濱口さんの映画も、ミニシアターがなくなれば上映できなくなる可能性が高いです。8時間を超えるワン・ビン監督の作品などは映画館で観てこそですよね。濱口さんが話したように、上映される作品のほとんどが、全スクリーンの1割程度のミニシアターが担っている。でも、経済的な面ではミニシアターで上映されない作品、シネコンで上映される作品がほとんどを担っている。じゃあそれらの方が“いい”作品で、ミニシアターで上映される作品には価値がないかと言ったら、決してそうではないですよね。もちろん、芸術的価値も経済的価値も両方あるに越したことはありません。しかし、現在の仕組みだと、経済的価値を短期的にもちえない作品は簡単に駆逐されてしまう状況です。「ミニシアター・エイド基金」によって、そういった作品を支えたいと思う人がいることを可視化できたことは大きいですが、継続的に支援できる仕組みを考えなければ、その場しのぎにしかならないと言えます。

ーーなるほど。改善するためには何が必要なのでしょうか?

深田:文化予算が上がるというのがまずひとつ。そして映画業界に限っていえば、何よりも業界の中で互助する関係にならなければいけないと思います。例えば、アメリカでは映画館の組合があり、平時のときから積み立てていたお金を映画館に分配する形で、閉館を免れているという話を聞きました。そういった仕組みを日本でも作らなければいけない。韓国やフランスは、チケット税という形で、興行収入が映画界に再分配される仕組みになっている。シネコンで上挙げた収益が映画界に再分配されることによって、また多様な映画の製作や上映が保証されるわけです。こういった制度設計を行うためには、当然それぞれがバラバラではできません。フランス、韓国には映画のための公的な機関があるのが大きいわけです。しかも、現場のニーズを理解した人がトップに立っている。日本でも早急に作る必要があると思っています。

ーー「ミニシアター・エイド基金」として、第2弾、第3弾の動きなどはあるのでしょうか?

濱口:「ミニシアター・エイド」は公共的な機関でもなく、数人が集まってできた組織です。これが可能となったのも、緊急事態宣言によって、それまでの仕事がストップした状況があったからです。社会がある程度、平時に向かって動き出していくと、我々も今までと同じように動くことは難しいです。なので、「ミニシアター・エイド」としての第2弾、第3弾は基本的には考えていません。今後は映画に関わる仕事に限らず、多くの困った方が声を挙げられる環境があること、そしてその声を抑え込むのではなく誰かが聞き取ること、それを実現できる仕組みを考えていかなければいけないと思います。

深田:これで終わり?と思われてしまうかもしれないのですが、濱口さんが話したように、自粛期間だからこそできたことでした。「ミニシアター・エイド基金」を立ち上げてからは平時よりも忙しく、事務仕事をなめてはいけないと改めて感じました。4月からの2カ月間は朝から晩までほとんど「ミニシアター・エイド基金」のことしか行っていないです。今回は私たちに時間があったからできたことですが、これを常設することは難しい。セーフティーネットに関わる方が疲弊するような体制では長く続きません。なので、同じ形で第2弾、第3弾を考えるのではなく、恒常的な制度を構築することにエネルギーを注いでいく必要があると考えております。

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