UPLINK・浅井隆が考えるコロナ禍以降の映画館 「オンライン上映と共存するために」

カルチャースポットとしての映画館

ーーコロナウイルスの感染拡大が収束し通常営業ができるようになったとしても、オンライン上映が中心になる可能性もあると。

浅井: 7月から日本大学芸術学部で映画ビジネスの授業を担当することになったのですが、授業は最初からオンラインで実施します。もし、オンライン授業でなんの支障も生じないなら、大学の建物の構造自体が必要じゃない可能性が出てきますよね。何百人も生徒が入ることのできる大講堂は作らず、実験やゼミなどで一定数の人数が討論できるサイズの教室だけあればいい。オンラインであれば全国どこでも、世界中の大学の授業も受けることもできます。そうなってくると、質の低い授業は淘汰されていく。自ずと競争に敗れる大学も出てくるのではないでしょうか。もちろん、これからオンラインによる弊害なども色々出てくると思いますが、今回を機にインフラが整い移行することの障壁がなくなるのは大きい。

ーーなるほど。

浅井: この考えは映画館にも用いられるように感じております。コロナウイルス禍以前から、地方のミニシアターに若いお客さんがたくさん来ていたかというと、決してそうではない。ビジネスとして成立させるのであれば、アップリンクのように30~40人規模のサイズを基本として、映画館である以上にひとつのカルチャースポットの拠点にする。シネコンでは上映されない映画を観ることができる環境は必要です。でも、首都圏と比較すれば地方ではそういった作品に関心を持つ人はどうしても少なくなってしまう。だったら、その人数にあわせる劇場サイズにすればいいんです。ミニシアターよりさらに規模の小さい「マイクロミニシアター」。カルチャースポットとなる役割も兼ねることができれば、オンライン上映とも共存できるように思います。

映画の多様性を担保しているのは配給会社

ーー配給会社にはどんな影響がありますか?

浅井:「ミニシアターがなくなることにより映画の多様性が失われる」という意見があります。その通りではあるのですが、映画の多様性を担保しているのは、ミニシアターと同時に小規模の配給会社たちです。製作者が直接、配信サイトや、映画館と交渉するケースも増えていくと思いますが、国内外の良作を見つけて買い付けることは、仮にオンライン主体になったとしても変わらずに必要です。現在はミニシアターの危機であると同時に、収益が確保できない配給会社の危機でもあるので、映画の多様性のためにもサポートは必要不可欠です。

ーー配信サイトでの視聴やパッケージの購入も、配給会社へのサポートに繋がるのでしょうか?

浅井:そうですね。現在、UPLINK Cloudのプラットフォームを使って、「Help! The 映画配給会社」と名付けた各配給会社ごとの見放題パックの配信も始まりました。今までもそうした配給会社の作品は、Netflixなど配信系のプラットフォームにもあるのですが、なかなか見つけづらい。配給会社ごとのカラーがあり、まとめることで支援にも繋がりやすいですし、新たな発見もあると思います。

ーー緊急事態宣言の解除の兆しが見えてはきましたが、先行きは不透明な状況です。オンライン上映も今後増えていくと思われる中で、それでも映画館にはどんな役割があるでしょうか?

浅井:映画館の暗闇、そして音響施設は自宅での再現は難しいものです。また、映画館までの道のりも含めて、言葉通り“体験”できることが映画館での鑑賞の醍醐味だと思います。映画館が元に戻るためには、映画ファンが映画館に来てくれることですが、安心できないと、誰も映画館に行けませんし、僕たちも来てくださいとは言えません。緊急事態宣言が終了しても、映画館の運営は座席を1席開けるなど間引く必要があるでしょう。満員でも半分の入りとなれば、はたしてアップリンクのように40席前後の映画館が成り立つのかどうかといえば、その状態がさらに3カ月も続けば絶対に無理です。希望があるとは全く言えない状況で、再び映画館が必要とされる日まで耐えられるのかどうかの今は瀬戸際です。

■浅井隆
アップリンク代表、未来の映画館プロデューサー、webDICE編集長

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