『きょうの猫村さん』はミニドラマの新たな解を提示? 穏やかな日々が永遠に続いていく多幸感

 そもそも「猫が家政婦として人間社会で働く」という設定からして荒唐無稽なのだが、たとえば第1話。「村田家政婦紹介所」で働く家政婦の山田さん(市川実和子)が扉を開けると、求人募集のチラシを持った猫村さんが立っている。ここでのファースト・リアクションが、このドラマの方向性を決定づける重要なポイントだ。山田さんは「あれ、猫じゃなーい。何の用?」と発する。すると紹介所の所長・村田の奥さん(石田ひかり)が奥から出てきて「うちが出してるのは“求人”広告だからねえ」と続く。この両者による、驚きもしないが、当然のものとして受け入れるわけでもない、フラットな反応が絶妙だ。

(c)テレビ東京

 それでいて、村田さんの断りをガン無視して「そうですか。じゃあ失礼して」と勝手に上がり込み、持ち前の家事スキルを発揮して、あっという間に2人の信頼を獲得する猫村さん。この可笑しくも自然で、「スッと入り込んでくる」様が、まさにこのドラマの質感そのものといえる。

 脇を固める俳優陣の名演も見逃せない。石田、市川の両者に加え、最愛の恩人・ぼっちゃんに濱田岳、猫村さんのはじめての奉公先となる犬神家の女主人・冴子に小雪、冴子の娘でヤンキーの尾仁子に池田エライザ、尾仁子の彼氏・強に染谷将太、近所の怖がりの奥さんに安藤サクラなど、錚々たる俳優たちが顔を揃える。名優たちによるワンシーンごとへの丁寧な取り組み、そして脚本・演出の球筋の正確さから、ミニドラマの特性を最大限に活かしつつ、2分30秒を短いと感じさせない濃密な作りとなっている。なおかつ、視聴後じんわりと残る余韻。これはミニドラマの新たな解と言ってもいいのではないだろうか。

 コロナ禍の厳しい日々に、スッと入り込んできた『きょうの猫村さん』。当たり前の日常のありがたみを思い知らされる今、このドラマに漂う「穏やかな日々が永遠に続いていく」ような多幸感は、かけがえのないプレゼントだ。今週もまた、豊かな余韻に浸りながら、次の回を楽しみに待とう。

■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。

■放送・配信情報
ミニドラマ『きょうの猫村さん』
テレビ東京系にて、毎週水曜深夜0:52~0:58(全24回)
Paraviにて、毎週地上波放送後に配信
原作:ほしよりこ『きょうの猫村さん』(マガジンハウス刊)
出演:松重豊
<猫村さんの大切な人>濱田岳
<家政婦紹介所で出会う人たち>石田ひかり、市川実日子
<犬神家で出会う人たち>松尾スズキ、小雪、池田エライザ、水間ロン、染谷将太
<お買い物で出会う人たち>安藤サクラ、荒川良々
監督:松本佳奈
脚本:ふじきみつ彦
主題歌:「猫村さんのうた」(作曲:坂本龍一/作詞:ユザーン/歌:松重豊)
音楽:篠田大介、坂本龍一
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、千原秀介(AOI Pro.)
製作著作:テレビ東京
制作協力:AOI Pro.
(c)テレビ東京
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyouno_nekomurasan
公式Twitter:https://twitter.com/tx_nekomurasan

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