家政婦/夫ドラマは“癒し”の存在に? 『私の家政夫ナギサさん』『家政夫のミタゾノ』などから考察

 なぜ家政婦ドラマが増えているのか。その背景にはまず、決まったセット・決まった場面の中でストーリーを展開できる制作費の利点があるだろう。

 今よりもまだテレビに予算があった当時でも、『家政婦のミタ』の制作費は、ロケがほとんどないことなどから3000万円程度と言われていた。同クールのTBS開局60周年大型企画として放送された『南極物語』が1本約1億円だったことを思うと、格安である。

 また、「家政婦」という特殊なポジションにより、他人の秘め事や暗部をのぞき見できたり、家族再生を内面から描けるのは脚本・演出上の利点でもある。

 しかし、そうした流れから『ミタゾノ』シリーズを除く春の家政婦ドラマを改めて観てみると、『私の家政夫ナギサさん』『きょうの猫村さん』では、「家政婦」の描き方が異なっていることに気づく。

『私の家政夫ナギサさん』(c)TBS

 家政婦→家政夫と、男性が家事のスペシャリストとしてて登場するのは『ミタゾノ』と同じ、現代ならではだろう。しかし、『ナギサさん』が大きく異なるのは、仕事はデキるのに、家事が全くできないヒロイン(多部未華子)にとっての癒し、生活の潤いとして、ナギサさん(大森南朋)が登場すること。

 自分は好きな仕事に励み、家では「お母さん」のように優しく気がまわる人に癒されたい、内助の功で助けてほしいと願う女性は多い。そうした傾向は、近年のNHKの朝ドラ『あさが来た』の新次郎さん(玉木宏)や『スカーレット』八郎さん(松下洸平)の人気からもよくわかる。

 また、その一方で、仕事がデキて、それを諦めざるを得なかった母から「お母さんになりたい」という夢を幼い頃に否定され、仕事人間になったヒロインと、「お母さん」になりたくて「家政夫」という職業に就いたナギサさんとの交流も描かれる。「そんなこと」と言われ、下に見られがちの家事が、いかに人生を豊かにするものかを再認識させられたり、専業主婦が誇りを見出すことのできる内容にもなりそうだ。

『きょうの猫村さん』(c)テレビ東京

 一方、『猫村さん』の場合は、仕事に対する誠実さ、一生懸命さ、律儀さはあるものの、決して家事が完璧というわけではない。素直で、好奇心旺盛で、知らないことに無邪気に反応し、夢中になったり、猫の習性からときにはゴロゴロしたり、どこかヌケていたり。そんな姿に、思わずクスリとさせられたり、癒されたりしてしまうのだ。

 のぞき見や、巻き込まれ、家族再生を経て、「癒し」の存在に変わってきている家政婦/夫ドラマ。企画時に予想されたわけではないのに、奇しくも感染症の影響で疲れきった私たちを癒してくれる、時代が求めるドラマとなっているのではないだろうか。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■番組概要
火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
TBS系にて、近日放送
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
(c)四ツ原フリコ/ソルマーレ編集部

ミニドラマ『きょうの猫村さん』
テレビ東京系にて、毎週水曜深夜0:52~0:58(全24回)
Paraviにて、毎週地上波放送後に配信
原作:ほしよりこ『きょうの猫村さん』(マガジンハウス刊)
出演:松重豊
<猫村さんの大切な人>濱田岳
<家政婦紹介所で出会う人たち>石田ひかり、市川実日子
<犬神家で出会う人たち>松尾スズキ、小雪、池田エライザ、水間ロン、染谷将太
<お買い物で出会う人たち>安藤サクラ、荒川良々
監督:松本佳奈
脚本:ふじきみつ彦
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、千原秀介(AOI Pro.)
製作著作:テレビ東京
制作協力:AOI Pro.
(c)テレビ東京 (c)ほしよりこ/マガジンハウス
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kyouno_nekomurasan
公式Twitter:https://twitter.com/tx_nekomurasan

『家政夫のミタゾノ』
テレビ朝日系にて、4月24日(金)スタート 毎週金曜23:15〜0:15放送
出演:松岡昌宏、伊野尾慧(Hey! Say! JUMP)、飯豊まりえ、しゅはまはるみ、平田敦子、余貴美子
脚本:小峯裕之ほか
演出:片山修、小松隆志ほか
音楽:ワンミュージック
エグゼクティブプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:秋山貴人(テレビ朝日)、木曽貴美子(MMJ)、椋尾由希子(MMJ)
制作:テレビ朝日、MMJ
(c)テレビ朝日

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