阿部寛主演作はなぜシリーズ化される? 進化する姿を捉えた『下町ロケット』などから探る

 なぜ阿部寛は10年以上にわたって複数のシリーズで主演を務めることができるのか? 以前、阿部はインタビューに答えて「1つの役を長くやり続け、しかも、途中何度も違う役を演じて戻ってくると、その時の自分の現状やバロメーターを図れるんです」と語っている(参考:阿部寛が明かす、“加賀恭一郎”の8年間 「『新参者』シリーズは役者としての基盤を支えてくれた」)。意訳すれば、様々な役柄を演じて培った経験をそれぞれのシリーズの続編に注入しているということだろう。一見、同じキャラクターを繰り返しているようだが、日々、ディテールの進化を積み重ねているのだ。

 また、複数のシリーズで主演を張るということは、その都度異なる監督とタッグを組むことを意味する。『新参者』加賀恭一郎シリーズの最新作である映画『祈りの幕が下りる時』の監督は『下町ロケット』の演出を手掛ける福澤克雄だが、阿部は「福澤さん独自の世界観があるだろうなとお任せしたんです」と振り返る。『TRICK』シリーズの堤幸彦や『テルマエ・ロマエ』の武内英樹ら、作家性の強い監督の演出意図を的確に汲み取り、役柄に命を吹き込む俳優としての力量の高さがうかがわれる。

 2018年に続編が制作された『下町ロケット』は、佃製作所というチームのサクセスストーリーでもある。安田顕や立川談春、竹内涼真をはじめ、日曜劇場の常連となる俳優陣が顔をそろえ、佃製作所が苦境を乗り越えて快挙を達成する陰に、阿部演じる佃航平のリーダーシップがあったことは見逃せない。技術にプライドを持つ根っからの職人気質で、熱中すると周りが見えなくなってしまうところはあるが、困難に正面から立ち向かう佃の姿は私たちを鼓舞してくれる。

 たしかな演技力で当たり役を引き寄せ、時代を超えた存在感を放つ阿部寛。『下町ロケット』はたゆまず進化する俳優の姿を捉えたドキュメントでもあるのだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『下町ロケット特別総集編・第一夜』
TBS系にて、4月5日(日)21:00〜22:48放送
『下町ロケット特別総集編・第二夜』
TBS系にて、4月12日(日)21:00〜22:48放送
『下町ロケット特別総集編・第三夜』
TBS系にて、4月19日(日)21:00〜22:48放送
出演:阿部寛ほか
原作:池井戸潤『下町ロケット』『下町ロケット ガウディ計画』(小学館刊)
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎
演出:福澤克雄、田中健太、棚澤孝義
(c)TBS

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