竹内涼真の心さんに“ツッコミ”せずにはいられない! 『テセウスの船』から漂う大映ドラマの香り

『テセウスの船』は、令和時代のネオ・大映ドラマだ 

 まさかこんなツッコミドラマの様相を呈してくるとは思っていなかった『テセウスの船』。つくり手たちがどれくらい意図してやっているのだろうと気になって調べてみたら腑に落ちた。このドラマ、製作に大映テレビが参加しているのである。

 大映テレビとは『ザ・ガードマン』や山口百恵主演の『赤いシリーズ』など数々のヒットドラマを手がけた老舗の制作会社。だが、その真骨頂は「大映ドラマ」と呼ばれる一連の作品群にある。1980年以降、「私はドジでのろまなカメです!」の流行語を生んだ『スチュワーデス物語』(TBS系)、「悔しいです!」と叫ぶ森田光男が語り草の『スクール☆ウォーズ』(TBS系)、初井言榮演じるおばあちゃんが怖すぎてトラウマを植えつけた『ヤヌスの鏡』(フジテレビ系)など、パンチのある作品でヒットを連発した。

 その特徴は、運命に翻弄される主人公と、波乱万丈のストーリー、荒唐無稽の展開に、大げさな演技。あとだいたい伊藤かずえと松村雄基がいる。観れば一瞬で「これは大映ドラマだ!」とわかる強烈な個性で1980年代に一世を風靡した。

 1983年生まれの私がリアルタイムで大映ドラマと遭遇したのはもっと後。1997年に放送された『ストーカー・誘う女』(TBS系)だった。当時、社会問題化しつつあったストーカーをいち早く題材に取り入れた意欲作だったが、同時期に放送されていた『ストーカー 逃げきれぬ愛』(日本テレビ系)と比べても、ストーカーの異常性に戦慄するというより、雛形あきこの常軌を逸した演技とそれにうろたえる陣内孝則の滑稽さに、笑っていいのかビビっていいのかわからず、何とも言えないめまいを覚えた。

 『ストーカー・誘う女』は最高視聴率25.6%のヒットを記録し、翌年にはシリーズ第2弾と言える『略奪愛・アブない女』を放送。こちらも赤井英和と鈴木紗理奈のまったく板についていない標準語に、軽い放送事故のような衝撃を受けた。

 この異質さこそが大映ドラマの醍醐味なんだと少年心に興奮を覚えたものの、2000年代以降、こうした大映ドラマはほぼ見かけることがなくなり、ペガサスレベルの伝説の産物になっていた2020年。まさか『テセウスの船』で大映ドラマの面白さに再会できるとは思っていなかった。

 本作が大映ドラマの文脈だと解釈すれば、第1話のあの老けメイクも大映ドラマらしいとむしろ納得。いちいち視聴者にツッコミを入れられまくる心さんの言動も、大映ドラマの十八番だ。往時のような大げさな演技こそ鳴りを潜めているものの、麻生祐未の奇怪な老女役などは明らかに大映ドラマのノリ。

 『テセウスの船』とは日曜劇場らしいスケール感と、『白夜行』(TBS系)などでTBSが培ってきた本格ミステリーのノウハウに、大映ドラマという香ばしすぎる香料をブレンドした、令和時代のネオ・大映ドラマなのだ。だから、往年のドラマファンには懐かしく、10~20代の若い視聴者には新鮮に感じるのだろう。

 もちろんサスペンスとしても家族ドラマとしても上出来なので、犯人との攻防に手に汗握るも良し。家族の絆や由紀との関係に涙するも良し。もちろん今夜は心さんが何をしでかすかツッコミ待ちをしながら観るも良し。これぞ本当の「三方良し」だ。

 古の大映ドラマファンで、まだ本作を観ていない人はぜひ今夜からでも参戦してほしい。かつて栄華を極めた大映ドラマが、この『テセウスの船』をもって今、復活の汽笛をあげようとしている。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
日曜劇場『テセウスの船』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:竹内涼真、榮倉奈々、安藤政信、貫地谷しほり、芦名星、竜星涼、せいや(霜降り明星)、今野浩喜、白鳥玉季、番家天嵩、上野樹里(特別出演)、ユースケ・サンタマリア、笹野高史、六平直政、麻生祐未、鈴木亮平
原作:東元俊哉『テセウスの船』(講談社モーニング刊)
脚本:高橋麻紀
演出:石井康晴、松木彩、山室大輔
プロデューサー:渡辺良介、八木亜未
製作:大映テレビ、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

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