松下洸平は『スカーレット』の“縁の下の力持ち” 夫として陶芸家としての「ハチさん」の生き様
川原家の夫婦を語るに、喜美子と八郎の作家性の違いは欠かせないだろう。喜美子と八郎はとても良い夫婦だった。手を取り合い、並んで歩き、お互いに言いたいことがあるときはとことん向き合って暮らしてきた。しかし、ひとたび陶芸のことになると、湧き出る泉のようにイメージが降りてきて、せっせと手を動かし続けられる喜美子に反して、八郎はじっくり自分との対話を繰り返しながら、時間をかけて作り上げていく。2人はアーティストとしての気質が違っていたのだ。さらに、アーティストとしてのお金に対する価値観も異なっている。喜美子が、作りたいもののためならお金も苦労も厭わないのに対し、八郎は生活していくためのお金を捻出したり、作風を変えたくてもお金のためなら我慢できる強さがある。だが、こうした違いは、徐々に夫婦生活にも暗雲をもたらすことになる。そしてこの歪みは、2人が陶芸の道を進み続ける以上、どうすることもできないものだった。
2人はいい夫婦でありながら、陶芸家としてお互いを理解することができなかった。さらに八郎は、弟子の三津(黒島結菜)の中に分かり合える部分を見出し心を開く。この分かり合える部分というのは、断じて男女としてのものではないものの、夫婦の関係に深い影を落としたことに間違いはないだろう。このようにして起こったねじれは簡単には直せなかった。喜美子と八郎のどちらかが悪者だったわけではない。しかし、ゆっくりとねじれていった関係は、2人が気付く頃には後戻りできなくなっていたのだった。
こうして徐々に喜美子との関係が離れていってしまった八郎だが、別居してからも喜美子を女性として愛し、武志の父としての役割を全うしたように感じられる。どのような未来が訪れようとも、それぞれの信じた道を進み、幸せになってほしい。『スカーレット』はそんな恋慕の切なさもまた、魅力なのだ。
■Nana Numoto
日本大学芸術学部映画学科卒。映画・ファッション系ライター。映像の美術等も手がける。批評同人誌『ヱクリヲ』などに寄稿。Twitter
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、松下洸平、桜庭ななみ、福田麻由子、マギーほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記
演出:中島由貴、佐藤譲
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/