『グランメゾン東京』“歌舞伎界の御曹司”がなぜライバル役? 役に深みをもたらす尾上菊之助の説得力

 その重圧と責任とを引き受けた上で、菊之助はこの冬、大きな勝負に打って出た。宮崎駿原作の『風の谷のナウシカ』を構想5年の末に歌舞伎として上演し、女形としてナウシカを演じたのだ。

 歌舞伎ならではの表現や本水を使った演出、宙乗り。開幕3日目に劇中でトリウマから落下し左肘が亀裂骨折するという事態も起きたが、翌日には舞台に復帰。また怪我から10日後には一時休止していたメーヴェへの宙乗りも再開された。

 丹後がフレンチの伝統に最先端の技術をプラスし華やかな料理を生み出したように、菊之助は歌舞伎という伝統芸能の枠組みの中で新しい形の『風の谷のナウシカ』を魅せた。伝統を壊さず未知のものと融合させて化学反応を生む挑戦。恵まれた環境にいる者の責任と使命、輝く才能を持つライバルたちの存在と葛藤……やはり私には丹後と菊之助自身が深く重なっているように思える。

 第7話で発表された「トップレストラン50」の順位。「グランメゾン東京」は10位で「gaku」は8位。これからドラマの大詰めに向けて、彼らがパリ時代からずっと追い続けてきたミシュラン星獲りのエピソードが展開していくのだろう。

 このドラマの主人公である尾花、そして彼を信じ一緒に店を作り上げてきた倫子や京野、相沢たちに星がもたらされることを祈りつつ、天才・尾花を間近で見ながら何度も挫折を味わい、しかし正々堂々と彼と戦ってきた丹後学という“努力の人”のことを忘れないでいようと思う。

 私たちもまた、自分の力の限界を知りながら、それでももがく彼と同じなのだから。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p

■放送情報
日曜劇場『グランメゾン東京』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54
出演:木村拓哉、鈴木京香、玉森裕太(Kis-My-Ft2)、尾上菊之助、及川光博、 沢村一樹
脚本:黒岩勉
プロデュース:伊與田英徳、東仲恵吾
演出:塚原あゆ子ほか
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/grandmaisontokyo/

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