『アイリッシュマン』アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ レジェンド俳優たちの軌跡をたどる

『ヒート』の会話シーンが表す、コントラストと共通点

 作中、デ・ニーロ演じるニール・マッコーリーとパチーノ演じるチャック・アダムソンの間には、追われる犯罪者と追う刑事の立場を超えた関係性が横たわっている。両者は任務をやり遂げることに自身のアイデンティティを据えるもの同士であり、そして自ら律したルールに沿って行動するお互いはシンパシーとともに尊敬の念を抱いている。そんな二人が遂に対峙し語り合う該当シーンについて、マン監督は「コインの裏と表のようであり、似た者同士でもある関係性を描いた」と解説している。

 わずかな会話と視線の交差のみで二人の男のコントラストとシンパシーを見せるたった6分間のシークエンスは、まさに同時代のマンハッタンで演技の道を志し同じ学舎で夢を追いかけ、時に一つの役を取り合いながら、独自の演技アプローチで唯一無二の役者として在り続けてきた両者が交わることではじめて到達し得る表現を引き出すものだったのだ。

今もなお愛されるレジェンドたちが最新作で見せる“生き様”

 その後2008年にはジョン・アヴネット監督作『ボーダー』にて再共演を果たした二人のレジェンドは、これまで幾度となく比較され、時にライバルとして語られてきた。70代も後半にさしかかった今もなお、映画人に愛されラブコールが送られているのは、彼ら以外の役者には演じることのできない“代えがきかない役”があるからだ。

 パチーノは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、デ・ニーロは『ジョーカー』と今年を代表する話題作に出演しているが、それぞれ二人の存在が色濃く影響を及ぼしている。“映画界きってのシネフィル”として知られるクウェンティン・タランティーノはこれまでも自身の愛する作品の引用や敬愛する役者陣の起用を行ってきたが、テレビが一般普及したことにより映画産業が斜陽となったハリウッドを描く『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、彼の映画愛が顕著に現れる内容だ。

 過去作『レザボア・ドッグス』の大きな特徴である印象的な台詞回しは、パチーノによる代表作のひとつ『スカーフェイス』の影響下にあることからも、タランティーノが『ワンス~』において自身の映画愛を語る上で欠かせない存在としてパチーノをキャスティングしたことは明白だろう。

『ジョーカー』(c)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”

 また『ジョーカー』に至っては、監督のトッド・フィリップス自身がデ・ニーロの主演作『タクシー・ドライバー』『キング・オブ・コメディ』のファンであり、両作に対するリスペクトを詰め込んだ作品であることを公言している。

 『ゴッドファーザー PARTⅡ』での出会いから45年後、そして『ヒート』の伝説的競演シーンから更に約25年後、『アイリッシュマン』でパチーノとデ・ニーロは再び同じシーンに収まる。両者をスクリーンの中で出会わせたスコセッシは、共演の意図について「この時代におけるNYのバックグラウンド、そしてストリートの作法を理解した役者を起用する必要があった」「『アイリッシュマン』で見られるのは、過去40年にわたり友人関係を築いてきた二人の役者が持つ魔法なんだ」とコメントしている。

 本作において人生の盟友との再共演を遂げたお互いが「役者同士の友情は俺たちを結びつけた。お互い顔を合わせることはあまりないけれど、会えば俺たちは同じものを抱えていることが分かる。ある意味でボブ(デ・ニーロ)とは一生をかけてお互いを支えあっていると言えるだろう」(パチーノ)、「二人ともまだ仕事をしているということが嬉しいんだ」(デ・ニーロ)と語っているように、対照的でありながら時にクロスオーバーしてきた名優の絆が本作にもたらす“魔法”は、アイリッシュマンとホッファの姿を介しながら、一時代を築き上げてきた男同士の生き様そのものを映しだしているのだ。

参照

https://www.theguardian.com/film/2019/nov/01/robert-de-niro-and-al-pacino-were-not-doing-this-ever-again
https://www.theguardian.com/film/2014/oct/29/godfather-al-pacino-role-coppola-didnt-want
https://m.economictimes.com/magazines/panache/weve-helped-each-other-throughout-life-al-pacino-opens-up-about-bond-with-robert-de-niro/articleshow/71864077.cms
https://www.nytimes.com/2019/10/24/movies/robert-de-niro-al-pacino-the-irishman.html
https://www.cinematoday.jp/news/N0112616

■菅原 史稀
編集者、ライター。1990年生まれ。webメディア等で執筆。映画、ポップカルチャーを文化人類学的観点から考察する。Twitter

■配信情報
Netflixオリジナル映画『アイリッシュマン』
独占配信中
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:スティーヴン・ザイリアン
原作:チャールズ・ブラント著『I Heard You Paint Houses』
出演:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル
2019年/209分/アメリカ

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