立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第41回

「上映中にスマホを見る問題」の根本的な解決策は映画館の地位向上? 観客の“熱量格差”を考える

熱量の格差問題

 この連載では、いろんな角度から同問題に言及してきましたが、マナー論争もまた、これが根本にあると僕は考えています。時代によって、劇場内での喫煙ができなくなったり(劇場内に「禁煙」ってサインがあるところ見かけなくなってきました)、同じ劇場に座り続けてそのまま続けて別の作品を観るのがダメになったり(これってあまり指摘されないけど実質「大幅値上げ」ですよね)、上映が始まってからの入場に厳しくなったり(名画座ですら大幅に遅れての途中入場は禁止になっています)、鑑賞マナーやルールは大きく変遷してきました。

 ビデオレンタル、衛星放送、ネット配信と、映画を観るための手段が増えてくるに従い、当然、映画館に足を運んでくださる方の熱心な映画ファン率もまた高まっています。時間つぶしやお付き合いではなく、ちゃんと最初から最後まできちんと作品を集中して観たいというファンです。

 しかし、もちろん気軽な娯楽としてポップコーンをつまんで、コーラを飲みながら、肩肘はらず友だちと笑いながら観たい、という方もまだまだ少なくありません。これは熱量の格差問題、とでも呼ぶべきことです。

 この問題を解決するには、映画館に新たな業態が求められている、と僕は考えています。そう簡単ではありませんが、入場料を高額に設定した「ラグジュアリー・シアター」「プレミアム映画館」のような存在の必要性を強く感じます。このことで解決できる映画館をめぐる問題は多いはずです。

 映画館の持つ大衆性の素晴らしさを維持しつつ、熱心なファンが求める快適性やハイクオリティな上映の質も提供するという二兎を追うのは、そろそろ限界がきています。外食なら様々な状況によって、ファストフードにするのか、ミシュランの星を持っている店にするのか選べるように、映画館も選べるようになるべきではないか、と思うのです。しかもあくまでもここでいう「高級館」はシネコンであることが前提です。上映される作品はこれまで通りとさほど変わらなくていい。

 この高級館のほうでは、クラシック・コンサートと同じように、飲食禁止、1分でも遅れたら入場お断り、携帯電波のジャミング、常にスタッフが劇場内に待機して監視する等のことをすればいいのです。今よりも高額な入場料をいただければこれらは可能でしょう。この高級館が存在するということで、大衆館のほうを選んだ場合、隣でスマホをいじっている人間を見ても、まあ安い所を自分で選んだんだし、とある程度はあきらめもつくというものです。たぶん。腹立つとは思いますけど。

 例えば飛行機内でのファーストクラス、ビジネスクラスの存在が、エコノミークラスの狭さを納得させてくれているんじゃないでしょうか。もし一律だったら「飛行機の座席は狭すぎる」と問題になっていると思います。隣のテーブルの酔客の声量の許容値は、そこがチェーンの居酒屋なのか、コース1万円からの店なのかで大きく変化するはずです。

 IMAXやDOLBY CINEMAのような上映形態がある特別劇場は、この機能を果たすでしょうが、やはり建物ごと変えないと大きな効果は望めないと思います。たとえばコンセッション(売店)のフード&ドリンクだって、劇場に持ち込めないルールにするならば、抜本的な変更が必要になるからです。またロビーから「高級感」を醸し出すことが、場内マナーにも影響するからです。

「ガチ勢」に占められる予約システム

 映画館スタッフのくせに他人事みたいに分析しているけど、お前は現状でなにかできているのか、とお叱りを受けそうなので、シネマシティのことも書いておきます。シネマシティでは、この件については、有料会員制度特典の1日先行Web予約/窓口販売が効果を上げています。もちろん常に有効ではありませんが、人気の上映の場合、この1日で席の大半が埋まることは少なくありません。そうすると、いくらかの会費を支払ってまで会員になり、わざわざ日付変わりのタイミングで予約待機をしてチケットを取るお客様「だけ」がいる上映になるわけです。

 いわゆる「ガチ勢」に占められるので、みなさん作品に向き合う姿勢が全然違いますし、大抵の場合、作品への愛と比例してマナー意識も高いので、とても幸福な劇場空間になります。そんなときは終映後、この人たちといっしょに観られた、そのことに心動かされる場合すらあります。これこそが映画館で観る喜びだと、胸が震えます。

 常には難しいですが、現時点であっても、やりようによっては、こういう空間を生み出すことは可能なのです。……マナー論争とは軸がずれてしまいましたが。

 まとめますね。映画館鑑賞がいつ入って出てもよかった暇つぶしの代表格だった時代は終わり、日時も席も指定する演劇やコンサート鑑賞に近づきつつあります。スマホでも観られるのに映画館でわざわざ観るということは、作品に真剣に向き合いたいという気持ちがあるからです。しかし、産業構造上、大衆的であり続ける必要もありますし、安価で気軽な娯楽としてあり続けて欲しいと望むお客様もたくさんいます。

 繰り返しになりますが、この相反する要望を、一形態で両方満たし続けていくには、観客の熱量の格差が大きくなりすぎた、というのが僕の結論です。映画館も、他の娯楽やサービスのように、大衆/高級の住み分けがあっていいと考えます。

 映画料金問題やマナー問題など、いくつかの問題がこのことによって大きく改善されるのではないかと思います。どなたか、僕に出資していただけませんかね?(笑)。映画ファンの度肝を抜く、あらゆることを考え抜いた最高の映画館を作るアイディアとノウハウがあります。

 You ain't heard nothin' yet !(お楽しみはこれからだ)

(文=遠山武志)

■立川シネマシティ
映画館らしくない遊び心のある空間を目指し、最高のクリエイターが集結し完成させた映画館。音響・音質にこだわっており、「極上音響上映」「極上爆音上映」は多くの映画ファンの支持を得ている。

『シネマ・ワン』
住所:東京都立川市曙町2ー8ー5
JR立川駅より徒歩5分、多摩モノレール立川北駅より徒歩3分
『シネマ・ツー』
住所:東京都立川市曙町2ー42ー26
JR立川駅より徒歩6分、多摩モノレール立川北駅より徒歩2分
公式サイト:http://cinemacity.co.jp/

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