立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第41回

「上映中にスマホを見る問題」の根本的な解決策は映画館の地位向上? 観客の“熱量格差”を考える

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第41回は“映画館マナーはどこまで厳格化されればいいの?”というテーマで。少し前に「上映中にスマホを見る問題」が論争になったことを受けてです。

映画館とクラシックホールの違い

 映画館映画の頂点『ニュー・シネマ・パラダイス』では、第二次世界大戦後まもなくから50年代の終わりごろまでのイタリアはシチリアにある映画館での鑑賞の様子が描かれます。詳細はぜひ作品をご覧いただきたいのですが、まあ自由で大らかです(笑)。映画的演出の誇張もかなりあるとは思いますが、大人も子供も大騒ぎ。これがシチリア人気質なのか、あるいは時代のせいなのか、その両方かも知れませんが、確かに「映画館」というものの長所も短所も捉えていると思います。

 演劇、コンサート、伝統芸能など、あらゆる大人数で劇場にて鑑賞する娯楽や芸術の中で、映画はもっとも気軽で大衆的なものでしょう。なにしろ同時に世界中で上映することが可能なのですから、生の人間がパフォーマンスするものとはケタ違いの多くの人に観てもらうことが可能です。ということは、多数の人に観てもらえるように作っている、ということでもあります。つまり多くの作品が芸術的というよりは娯楽寄りということです。

 映画館、特にシネコンというのは、業態定義として原則ショッピングモールと複合しているということですから、ターゲットとする客層も概ねショッピングモールの客層ということになります。入場料金の額を踏まえれば、特にビジネス的な観点からみれば、マナーにしても、販売飲食物にしても、設備や接客についても、あまり高いものを要求されても困惑してしまう、というのが率直なところでしょう。

 こういう大人数で鑑賞してもらう出し物で、もっとも厳格なマナーを要求されるのはクラシック音楽のコンサートかと思います。最近は残響コントロールなんかで機械も使うものの、原則生楽器の音のみで演奏されることもあり、かなりの静寂が要求されます。よって飲食禁止なのが普通です。演奏が始まってからは、途中入場不可、曲終わりか次の楽章の切れ目まで、遅れて座席に座ることもできません。

 チケット代も、多くは映画館の何倍かの価格ですし、ほとんどのお客様がかなり前に事前購入して、ふらっと立ち寄るというのではなく、スケジュールを組んで来るわけです。高額な料金を払い、事前に購入してまで劇場に足を運ぶ人は、クラシック音楽を普段から愛聴しているとか、自分も楽器をやっているという方がほとんどでしょう。テレビやネットで話題みたいだから、明日ヒマだし行ってみるか、で気楽に訪れることができるシネコンの観客とは大きく差があります。

 映画館は大衆的なところ、クラシックホールはハイソなところ。極端な言い方をすれば、シネコンがファミレスや居酒屋で、音楽ホールは料亭やフレンチレストランみたいなもの。マナーについてあれこれ議論はあっても、結局ここに落ち着いてしまうのではないでしょうか。もちろんクラシックコンサートでも演奏中にスマホを見る人も、おしゃべりする人もいるにはいますよ。ですが映画館に比べたらその割合はかなり低いでしょう。そういう意味です。

 なのでこのコラムでは、本編中はもちろん、予告やエンドロールでもスマホ使うな問題とか、ティーンがメインターゲットのホラー映画やヤンキーが主人公の映画で中高生が友だちと来てベチャクチャしゃべる問題とか、ガサガサ音をたてて何かを食べる問題を論じるつもりはありません。前置きだけで半分くらい来てしまいましたが、実はこのコラムの本題は「カルチャーの中での映画館の地位向上問題」です。

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