『けいおん!』『バンドリ!』『うた☆プリ』……アニメーションにおける演奏表現の進化を辿る

音楽アニメの実在感は実際の演奏者を演出することで生まれる

 振付師が製作参加していると言っても、アニメーターにダンスのレッスンを施すわけではない。基本的には振付を実践したものを動画に納めて、それを参考に作画作業を行っている。この手法を「ライブアクション」と呼んでいるが、今日の音楽アニメの演奏シーンやダンスシーンの多くでこの手法が採用されている。

 例えば、スタジオジブリの『耳をすませば』で、雫と聖司がバイオリン工房で歌い出すシーンもライブアクションが用いられている。この演奏シーンの原画を担当したのは、『海獣の子供』の作画監督、小西賢一だが本人は「雫の声を担当した本名陽子さんが実際に歌う映像を参考にして描いた特別なシーンで、バイオリンの演奏部分も実際に弾いてもらった映像を見ながら作っていきました」と語っている(参考:キャラクターデザイン・総作画監督・演出 小西賢一インタビュー )。

『劇場版 響け!ユーフォニアム〜誓いのフィナーレ〜』(c)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 京都アニメーションの諸作品、『けいおん!』や『響け!ユーフォニアム』(以下、『ユーフォ』)でも、基本的にこのやり方が採用されている。特に大人数で、多数の楽器を用いて演奏する吹奏楽を扱った『ユーフォ』は、4、5人で演奏されるバンドの作画よりもハードルが高かったはずだ。しかし、『ユーフォ』では楽器専門の作画監督(故・高橋博行氏)をつけ、各楽器のフォルムを忠実に再現し、演奏シーンにおいても音に合わせた動きを徹底してリアルに描きこんでみせた。吹奏楽経験者からも感嘆の声が上がる再現度で、音楽をアニメートした作品の最高峰の一本だろう。

『リズと青い鳥』メイキングVol.3 楽器作画編

 音楽をアニメで描写するという点については、『カウボーイビバップ』で知られる渡辺信一郎監督もこの分野で挑戦を続けてきた作家だ。アニメ監督以外に音楽プロデューサーとしても活動する渡辺氏の音楽に対するこだわりはアニメ作品にも反映されており、彼の監督作品は常に楽曲への注目度も高い。演奏シーンのリアリティにもこだわり、ジャズに打ち込む若者たちの青春を描いた『坂道のアポロン』では、実際にセッションで演奏してもらったものを10台のカメラで撮影し、実写の映像を編集してから作画に臨んだという。さらに劇中のキャラクターの心情を演奏者に理解してもらった上で演奏してもらうなど、アニメにおける演奏シーンの作画は、実際の人物を演出することから始めているのだ(参考:臨場感あふれる演奏シーン 『坂道のアポロン』アニメ制作の舞台裏を公開)。

 渡辺監督の最新作『キャロル&チューズデイ』でも同様の試みは行われている。感覚的な言い方になるが、アニメのキャラクターが音に合わせて動くにとどまらず、「音を感じて」いるかのように描写されており、アニメと音楽の融合が高い次元で果たされている(※実際の撮影風景は以下の動画で確認できる)。

「キャロル&チューズデイ」Story of Miracle Vol.2

 ライブアクションという英語は、日本語では「実写」を意味する。実写映像をなぞって描くロトスコープとは異なり、あくまで実写映像を参照して描いているわけだが、実際の演奏者をいかに演出するかが肝でもあり、その点において、この手法は実写映画の役者の芝居作りと似たようなプロセスなのだ。

関連記事