『チェルノブイリ』と『ジョーカー』の深い関係を 「ショーランナー」と「音楽」から掘り下げる

 最後にもう一つ、『ジョーカー』との重要なリンクを。『チェルノブイリ』と『ジョーカー』は、アイスランドの作曲家/チェリスト、ヒドゥル・グドナドッティルの劇伴作曲家としての、それぞれテレビシリーズにおけるデビュー作、そして映画における事実上の単独デビュー作である。昨年亡くなった同郷のヨハン・ヨハンソンに導かれて本格的に映画音楽に関わるようになり、アカデミー音響編集賞を受賞した『レヴェナント: 蘇えりし者』(2016年)でも坂本龍一を作曲・チェロ演奏でサポートする重要な役割を果たしていた現在37歳のグドナドッティルは、エミー賞で最優秀音楽賞を受賞した『チェルノブイリ』と、ヴェネチア国際映画祭で最優秀音楽賞を受賞した『ジョーカー』によって、一躍世界で最も注目される映画音楽家となった。『ジョーカー』を「映画における事実上の単独デビュー作」とするのは、初めて単独でクレジットされた『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』(2018年)が、前作『ボーダーライン』でヨハンソンが手がけたメインテーマ(近年多くの映画音楽家から模倣されている、映画音楽の歴史を変えた名曲「The Beast」)を引き続き使用していたから(映画そのものも同年に亡くなったヨハンソンに捧げられていた)。『ジョーカー』はグドナドッティルが映画音楽家として完全に独り立ちしてから初の作品であり、順番ではその前となる本作『チェルノブイリ』で、初めてドキュメンタリー以外の作品の劇伴を単独で手がけたことになる。

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 『チェルノブイリ』におけるグドナドッティルの音楽は、ヨハンソンが映画音楽に持ち込んだ手法を正統に引き継ぐものだ。旋律を聴かせるのではなく、無機質な低音をサブリミナル的に響かせて、作中の状況音と一体化した楽曲。無音の時間を最大限に生かして、ここぞというタイミングで立ち上がる強烈な音圧。『チェルノブイリ』においてトラウマ的に脳裏に刻まれる「音」は発電所内で鳴り響く警報の音だが、グドナドッティルの音楽は、しばしばその警報を擬態するかのように最も嫌な音程と最も嫌なタイミングで挿入されて、恐怖を増幅していく。『ジョーカー』ではヨハンソン仕込みのそうした手法をさらに発展させた新境地を切り拓いているグドナドッティルだが、いずれにせよ両作の芸術的達成に彼女の音楽は不可欠なものだった。

海外ドラマ『チェルノブイリ』 9月25日独占日本初放送!

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)。最新刊『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。Twitter 

■放送情報
『チェルノブイリ』(全5話)

BS10スターチャンネル
【STAR2 字幕版】10月27日(日)14時30分~21時00分※全5話一挙放送
【STAR3 吹替版】11月16日(土)23時15分~29時40分※全5話一挙放送

Amazon Prime Videoチャンネル
「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」
※字幕版・吹替版 配信中

※BSスカパー!で第1話無料放送決定!
字幕版10月26日(土)20時/吹替版11月10日(日)21時

監督:ヨハン・レンク
脚本:クレイグ・メイジン
製作総指揮:キャロリン・ストラウス ほか
出演:ジャレッド・ハリス、ステラン・スカルスガルド、エミリー・ワトソン、ポール・リッター、コン・オニール、デヴィッド・デンシック、アダム・ナガイティス、ジェシー・バックリー

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公式サイト:https://www.star-ch.jp/drama/chernobyl/sid=1/p=t/

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