『天気の子』はアカデミー賞を受賞できるのか? これまでの傾向とほか候補作品から可能性を探る
昨年は外国語映画賞に是枝裕和監督の『万引き家族』がノミネートされ、長編アニメーション賞には細田守監督の『未来のミライ』がノミネート。ハリウッド映画を中心に世界中から優れた映画作品が集まるアカデミー賞の場で日本の作品が注目を集めるというのは、やはり嬉しいことだ。そんななか、来年の第92回アカデミー賞から「国際長編映画賞」へと名前を変える、かつての「外国語映画賞」の日本代表作品に、新海誠監督の『天気の子』が選出された。
滝田洋二郎監督の『おくりびと』が日本映画として初めて「外国語映画賞」(名誉賞時代を含まず)を受賞してから11年も経ったと考えると何だか冷や汗が出てしまいそうになるが、それはさておき、前述の通り『万引き家族』が昨年ノミネートされたばかりとはいえ、ここ最近の日本映画は外国語映画賞で苦戦を強いられていると言ってしまっても問題ないだろう。50年代、まだ「名誉賞」と呼ばれていた時代には『羅生門』『地獄門』『宮本武蔵』と3作品が受賞を果たし、その後名称を変更し80年代序盤にかけて計11作品がノミネートされるも受賞を逃している。そして2003年に山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』が21年ぶりにノミネートを果たし、2008年に5年ぶりのノミネートとなった『おくりびと』が受賞を果たす。また中島哲也監督の『告白』が、各国のエントリーが出揃ったあとに9作品まで絞られる最終選考のショートリストに入るもののノミネートを逃し、昨年ようやく『万引き家族』がノミネートにたどり着いたという、日本映画と外国語映画賞の歴史はざっとこんな感じだ。
そもそも外国語映画賞(ここでは便宜的に「国際長編映画賞」ではなく旧来の「外国語映画賞」と言わせてもらいたい)は、アメリカ映画かつ英語の映画が中心となるアカデミー賞で唯一、アメリカ以外の国で作られた作品のみで構成される部門であることは、その名称が表す通り。他の部門とは異なり、「ロサンゼルスで1週間以上有料上映された」という実績がなくとも、毎年各国からそれぞれの方法で選出した作品がエントリーされ、一次選考で作品数を絞ったのち、最終選考で5作品のノミネートを決定する。昨年は87カ国、一昨年は92カ国と、近年エントリーする国や地域の数は増加していることもあって、エントリー作品の質は紛れもなく向上していると見受けられる。日本もこれまで、外国語映画賞設立の第29回から、第49回を除いて毎年エントリー作品を選定し、世界の名だたる作品と競合してきた。今回『天気の子』は、いわずもがなアニメーション作品だが、過去に『平成狸合戦ぽんぽこ』と『もののけ姫』が同じように日本代表に選定された歴史もある。
ではここで、簡単に「国際長編映画賞」の傾向をおさらいしておきたい(今回から名称が変更になったわけだが、その選考基準や方法には一切の変更がなく、これまでの「外国語映画賞」と傾向そのものは大きな変化がないと考えられる)。まず言えることは、ヨーロッパ勢の強さである。これはもちろんその国々の作品の浸透度ともいえるが、イタリアとドイツ、フランスの作品が極めて強く、それ以外のヨーロッパの国々(ロシアも含む)の作品は前哨戦で目立った成績をあげておらずとも候補入りを果たすことが多い。もっともこれは“暗黙のルール”なのかある種の“癖”のようなものなのかは不明ではあるが、「前哨戦を独走した作品」が1枠、ロシアを含めた「ヨーロッパの作品」が2枠(これは前哨戦を独走する作品がヨーロッパ作品であっても関係なく)、それ以外の地域から各1本で2枠というような形が定番化しているのだ。