映画雑誌が日本映画界に果たしてきた役割とは? 展示会『映画雑誌の秘かな愉しみ』を訪ねて

「キネマ旬報」と「映画芸術」

 日本における映画ジャーナリズムとなって、やはり取り上げなければならないのは、「キネマ旬報」と「映画芸術」。今回の展示では「映画芸術」もきちっと紹介されている。濱田氏はこう語る。

「さすがに外せないということで調べましたけど、『映画芸術』は歴史をたどると面白い。1946年に清水光が創刊するんですけど、実は戦前に1度、発行しているんですね。この清水光は翻訳者でもあって、大学で哲学を教えたりもしていた。ちょっと堅物を想像してしまうんですけど、実際『映画芸術』では高度な映画論を展開していた。でも、実際はアメリカ映画が大好きだったそうです。そんな人物が『映画芸術』の原点に存在するのは面白かったですね」

 日本の映画雑誌を代表する『キネマ旬報』と『映画芸術』の関係はどう見たのだろう?

「あくまで個人的見解ですけど、良きライバルである一方で同志といいますか。『キネマ旬報』はベスト10が話題になって、『映画芸術』はワースト10が話題になる。このことが象徴するように、いまとなってはお互いいなくなられては困る存在ではないでしょうか。ともに切磋琢磨してきたから、ここまで続いている。日本の映画雑誌を語る上でともに欠かせない存在ですよね」

 最後に濱田氏はこうメッセージを寄せる。

「映画雑誌を通して、また新たな映画の楽しみをみつけていただければ。あと、これはほかでも言ったことなのですが、映画を観ると、映画についてなにかしたくなる。映画について自分なりの記録を残したくなったり、自分で作ってみたくなったりと。映画をめぐってなにかしたくなる。映画雑誌にも、そんな映画を愛する人の爪痕が残っているんじゃないかなと思うんです。それも感じていただけると、映画雑誌がもっと身近に感じられると思います。まだまだ、続いていってほしいメディアです」

 最後の最後に、これは個人的な見解にほかならないが、「映画雑誌」という言葉から「映画」を抜いて、「雑誌」という観点からも楽しめるのが本展示会かもしれない。映画雑誌に限定しているが、これだけ、110年にわたる「雑誌」の歴史を、戦前から戦後まで一気に見ることができる展示会というのはありそうでめったにない。実際、「雑誌」が成熟していく過程を全体から見て取れることができる。

 そういう意味で、映画ファンに限らず、たとえば「本」や「装丁」といったことに関心がある人でもなにか発見があるはずだ。ぜひ、多くの人に足を運んでほしい。

(取材・文=水上賢治)

■『映画雑誌の秘かな愉しみ』
期間:12月1日(日)まで
会場:国立映画アーカイブ展示室
開室時間:11:00~18:30(入室は18:00まで 毎月末の金曜日のみ開室時間20:00まで延長。入室は19:30まで)
休:月曜日、9月30日(月)まで休室
料金:一般250円/大学生130円/シニア、高校生以下及び18歳未満、障がい者は無料
公式サイト:www.nfaj.go.jp

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