『いだてん』阿部サダヲ×役所広司、ぶつかり合うオリンピックへの情熱 銃声が告げる戦争の始まり

 しかし政治の本音はそれだけではなかった。掲げられた日本国旗と五輪旗の前で、政治は大声で言う。

「でもやりたい!」

 治五郎の本気に着いていくと宣言した政治は「どうなんだよ! やれんのかよ!」と思いをぶつけた。治五郎はこう返した。「やれるとかやりたいとかじゃないんだよ。やるんだよ!」「そのためなら、いかなる努力も惜しまん!」。治五郎の返答にうなづく政治の目は涙で潤んでいるようだった。その涙は絶望ではなく、希望を表すものだ。オリンピックへの並々ならぬ情熱が伝わってきた。

 劇中、高橋が「君は怖いものなしだな」と政治に笑いかけるシーンの前後で銃声が響いた。片方はスタートを知らせる銃声で、ロサンゼルスオリンピックで活躍した選手たちの姿が映し出された。しかしもう片方は、青年将校らの写真が映し出され、高橋らを殺した銃声であることがわかる。平和と戦争という相反するものの始まりを告げる音だ。第34回のラストは、ラトゥールが日本のオリンピック招致を検討する前向きなものではあったが、もうすでに彼らの前には戦争が影を落としているのだ。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』
[NHK総合]毎週日曜20:00~20:45
[NHK BSプレミアム]毎週日曜18:00~18:45
[NHK BS4K]毎週日曜9:00~9:45
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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