Netflix、バブル終了で転換期へ? “ストリーミング戦争時代”にいかにメガヒットを生み出すか

 本格的なストリーミング競争に入るNetflixはコンテンツ製作費(およびそれに伴う債務)を増やしている。2019年は最大150億ドルをかける見立てだ。広告収入のないNetflixの成長を促す存在は有料会員にほかならない。レガシースタジオの参入により『フレンズ』や『ザ・オフィス』といった人気ライセンスショーを失う予定の彼らは「新規会員を惹きつけるオリジナル作品」を今まで以上に求めている。たとえば、Netflixがショー継続の判断に用いる内部メトリクスでは、製作コストが視聴者数に見合うかが重要とされる。そのうち参照されるデータ・バランスは随時変動されるが、重視される層は「登録したばかりの視聴者」「退会する可能性が高い/久しぶりにアクセスした視聴者」。反して「定期的にアクセスする視聴者」のウエイトは減らされたという(2019年7月The Informationおよび翌月The Hollywood Reporter参考)。ここからは推測にすぎないが、批評家から「年間最高傑作」と評された『トゥカ&バーティー』の視聴者層は、熱心なドラマファン、たとえば『ボージャック・ホースマン』を完走しているようなNetflixヘビーユーザーが多かったのではないだろうか。その場合、シーズン更新はより不利になる。

 「新規会員を惹きつけにくいショー」として持ち上がるのが「つづきもの」だ。Netflixはあまり長くショーを続けない。前出2記事の情報源によると、人気作であろうとシーズン3以降は新規会員の獲得にあまり役立たないそうだ。クリエイター側の報酬増加要求やボーナスの頃合いを鑑みると、シーズン2または3後のタイミングでショーを終了させるパターンこそ節約になる。『The OA』がキャンセルとなったのはこの「シーズン3の壁」フェーズだ。また、シーズン3製作が決定したエミー賞ノミニー常連『オザークへようこそ』にしても「人気は高いもののコストが価値を超えるポイントに接近している」と警告を受けたとされる。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』

 「新規会員を惹きつけるショー」の代表格はシーズン3も大きな数字を生んだ『ストレンジャー・シングス』だ。当然のことながら、Netflixは本作級のモンスター・ヒットをあらたに作りだしたいだろう。CEOリード・ヘイスティングスが投資家との電話において「『ストレンジャー・シングス』なくして新規加入者獲得は困難」だと認めた情報もある。しかしながら、定額制VODが乱立するほど、視聴者の選択肢は増えてゆく。飽和する米国マーケットで大ヒットを飛ばすにはどうすればいいのだろうか? ここでトップスターの登場だ。この数年でNetflixが大型契約した『ゲーム・オブ・スローンズ』のデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス、『glee』のライアン・マーフィー、そしてビヨンセやバラク・オバマ夫妻は、その名前だけで視聴者および未登録者の関心を惹きつけることができる。無論、Apple TVが揃えたスピルバーグやJ・J・エイブラムスも同様だろう。コンサルタント企業PatriarchのCEOエリック・シファーは、The Vergeにて「超一流プロデューサーの管理こそストリーミングの未来」だと定義した。名声が確立されたトップ・クリエイターの起用はコストがかかるが、そのぶん視聴者数が保証されるため、リスクが低い。シファーはこうつけ加える。「つまり、旧来のハリウッドのようなやり方です」。

 『OITNB』がスタートした2013年から、Netflixは大きく変わった。アイデンティティのひとつだったデータ秘密主義を緩和させ、視聴者数を公表しはじめている。社内ではパイロット版製作の話も出たようだ。「ハリウッドの破壊者」としての成り上がり劇は幕を閉じ、今では激しく追撃される立場の「ストリーミングの巨人」となった。バブル期を終えたことで同社のコンテンツ方針がどうなっていくかはわからない。TVファンにできることがあるとしたら、結局、大規模ヒットは見込めなそうな作品を早めにビンジすることだろう。

■辰巳JUNK
ポップカルチャー・ウォッチャー。主にアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマなど。 雑誌『GINZA』、webメディア等で執筆。
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