『なつぞら』オープニングに22歳の若手アニメーターが抜擢された理由 「ヒロインが描いたように」
舘野「業界が待遇を考えるきっかけになってくれると」
ーー舘野さんが刈谷さんを指名した理由は?
舘野:乱暴な言い方ですが、ほとんど勘です。台本の準備稿をいただいて、ふと刈谷さんが浮かんだんです。他にも若くて同じぐらいの年頃の人は何人かは知っているんですけど、その中で彼女が浮かんできたのは確かです。彼女自身が、目がキラキラしていてパッと明るいんですが、やはり本人が絵に出るんです。本人がステキだったら絵もステキで、間違いないだろうと。彼女は本当にまっすぐでくじけずにやるし、そういうのが良い方向に出たなと思います。
ーーお話を聞いているとまさになつのような方です。
舘野:広瀬さんに対抗しようとかではなくて、絵を描く方でもそういうヒロインに相当する人がでてきたらよりドラマが素敵になるかなと思いました。もちろん男の人が書いてもいいと思いますが、あたかもヒロインが描いたようにできたらなと。
ーーアニメーターとしてなつとご自身で共感するところはありますか?
刈谷:家に帰ってゴミ箱から拾ってきた先輩方のうまい絵を模写しているところですね。私はゴミ箱から絵を持って帰ることはなかったんですが、夜帰ってから同じ会社の人の画集を元に絵の練習をすることがありました。
ーーアニメーターが主役のドラマというのはどうお考えですか?
刈谷:『なつぞら』を機に、アニメーターに興味を持ってくれるのはすごく嬉しいんですけど、今のアニメ業界は新人が食べていけないとか、問題が色濃くあります。私はまだまだそういう力を持っていないんですけど、そういった待遇は改善していかなければいけないなと思っています。
舘野:待遇は、昔から良くないです。私もそこそこ名の知れている会社に入っても、最初は家賃を払うと生活費が出せないくらいギリギリでした。残業代も限りなく出るわけじゃないし、手を早くしてたくさん描くしかなかった。人によっては描き飛ばして、たくさん描いて出世する人もいましたが、やはり絵描きは綺麗に描きたい人が多いので、みんな苦しんでいたと思います。今活躍している有名な方も、若い時は極貧だった時期を乗り越えて残っている方達で。待遇改善は永遠のテーマですが、アニメーターに憧れる人がたくさん出てきたら、嫌が応にも業界がそれを考えるきっかけになってくれるんじゃないかなと一番願っていることです。
ーー初回からアニメーションがふんだんに挿入されて驚きました。アニメーション業界で働く方からは本作はどのように受け止められているんでしょうか。
舘野:驚きでしょうね。初回に関しては、私も驚きました。ドラマなのに、タイトルバック、戦争のシーン、空に飛び上がるという3種類のアニメーションを差し込んでます。同業者ももっと反発されるかなと思ったんですけど、皆さん好意的に受け止めてくれた気がします。そっと遠巻きに近づいてきて、「あれはどうなっているの?」と探るように聞かれるんです。ちょっと聞きづらそうに(笑)。
刈谷:同世代の人たちは、仲間ではあるんですけど、みんなライバルでもあるので、そこはニコニコしながら寄ってくる感じではなくて、ひっそりと裏で見てるという感じですね。
舘野:手放しではなかなか褒めてもらえないですね。ただ、「アニメーターを陽の当たるところに持ってきてくれてありがとう」と言ってくださった方はいます。