松田翔太が醸し出す狂気 『東京喰種【S】』原作を狭く深く掘り下げることで際立つ月山の魅力

  そして前作の清水富美加が降板したため、代役として本作から参加したトーカ役の山本舞香は鋭い眼光と、ハスキーな声でとても役にハマっている。

 パッと見は華奢な彼女だが、空手経験者らしい体幹のしっかりしたアクションを繰り広げ、主人公よりも主人公らしい活躍を見せ、一番おいしいところを持っていく。昨年の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でも女子高生グループの頼れるリーダー演じていたが、かっこいい女子高生を演じさせたら山本舞香が今一番なのではないか。実写化で一番重要なキャストの再現度に関して文句なしにクリアしているだけでも、本作は成功だといえるだろう。

 ストーリーとしては人肉を食べなければ生きていけない喰種でありながら、人間と共存しようとする非合理的な金木やトーカ達と、喰種であることを楽しみ、生きるためだけでなく美食としての人間食いを楽しむ合理的な月山の対比が描かれる。

 終盤、好きなだけ人肉を食べているため、喰種としての戦闘力も極めて高い月山に対し、食を我慢し人間に溶け込むために本来受け付けない食物まで食べて弱体化している金木達は圧倒的戦力差に翻弄される。しかしそこで金木が見せる自己犠牲で逆転を果たすという展開がグッとくる。

 『東京喰種』では、アクションシーンにおいて喰種特有の赫子(かぐね)という触手状の武器を使うので、必然的にCGを多用することになるが、今の日本のCG技術ではリアルな赫子バトルは再現できていないのではないかというのが前作での印象だった。それゆえか今回は終盤のここぞという場面でしか赫子は登場せず、肉弾戦中心のバトルになっている。この決断は功を奏したと言いたいところだが、本作で増えた肉弾戦は俳優たちが実際に鍛えてほとんどスタントを使わずに行っているのだが、カット割りが多く動きが捉えづらいうえに、位置関係もわかりにくくて残念ではあった。

 決してクオリティが低いわけではなく、上述した山本のアクションなどの見どころも多いのだが、月山が金木を追い詰めていくストーリー面の緊迫感に比べると決着となるバトルはいささか盛り上がりに欠ける。今年公開された漫画実写化映画『キングダム』での山崎賢人と坂口拓の本気の斬り合いにしか見えない剣戟や、岡田准一の異常なまでの身体能力が発揮された『ザ・ファブル』の銃撃戦、肉弾戦を見た後だと、どうしても物足りなさを感じてしまう。『キングダム』では日本屈指のアクション監督・下村勇二が演出をつけ、『ザ・ファブル』では岡田准一本人がファイティングコレオグラファーとしても参加していたことがクオリティの底上げに繋がっていた。本作に出演する俳優の身体能力の高さを考えると、改善の余地はあるだろう。

 ポストクレジットシーンでは、新たなキャラクターが登場し、3作目が製作される可能性も示唆された。キャラクターを演じる人気俳優の活躍を含め次回作により期待したい。

■シライシ
会社員との兼業ライター。1991年生まれ。CinemarcheやシネマズPLUSで執筆中。評判良ければ何でも見る派です。

■公開情報
『東京喰種 トーキョーグール【S】』
7月19日(金)全国公開
出演:窪田正孝、山本舞香、鈴木伸之、小笠原海、白石隼也、木竜麻生、森七菜、桜田ひより、村井國夫、知英、マギー、ダンカン、柳俊太郎、坂東巳之助、松田翔太
原作:石田スイ『東京喰種トーキョーグール』(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:川崎拓也、平牧和彦
脚本:御笠ノ忠次
主題歌:女王蜂「Introduction」(Sony Music Associated Records)
配給:松竹
(c)2019「東京喰種【S】」製作委員会 (c)石田スイ/集英社
公式サイト:http://tokyoghoul.jp/
公式twitter:https://twitter.com/tkg_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/tkg_movie/

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