『アラジン』も興行収入100億円の大台へ なぜ日本では音楽映画が大ヒットするのか?

 また、キングス・カレッジ・ロンドンの映画研究者マーサ・シェラー教授は、「個人主義が進み、社会の分断を実感している現代の観客は、一種の集団的体験への憧れを抱いている。音楽映画が提供する音楽パフォーマンスは、映画館の観客に“他の皆と同じ瞬間に立ち会っている”と自分が群衆の一部であるという意識を持たせ、その一体感が快感を作り出すと考えられる」と分析。いわく音楽映画は、劇場に居る観客に集団的な体験を与える働きを持つという。

 世界でも稀な上映方法といわれる、作品上映中に観客が大声を出したり歌うことが認められた“応援上映”が盛んに受け入れられているここ日本の観客は、特にこの集団的体験への憧れが強いのかもしれない。フィールズ研究開発室(FRI)による調査によると、2010年頃からアニメ作品を皮切りにスタートした日本の応援上映により、SNSで「何度でも観たい」「この素晴らしさは観た人にしか分からない」といった“内容は分からないけれど気になってしまう”コメントで作品レビューが拡散され、さらに歌や踊りなど自由に行えるインド発の“マサラ上映”や特別な音響機材を使用した“極上爆音上映”など様々なスタイルへと波及し独自の新たな映画市場を作り上げているという。応援上映が全国各地で行われた『ボヘミアン・ラプソディ』の日本興業収入が世界興収の約13%を占め、アメリカに次ぐ第2位を記録したことからも、日本人の音楽映画を求める想いの熱さが分かるだろう。

今年最注目の公開予定作品

 今年に入ってからも『メリー・ポピンズ リターンズ』『アラジン』など多くの話題作が公開されヒットを飛ばし続けている音楽映画。そのブームの熱はまだまだ冷めやらず、期待の公開予定作品が今後も数多く控えている。その中から、絶対に劇場で体感してほしい最新音楽映画4作品をピックアップして紹介する。

『ライオン・キング』

『ライオン・キング』(c)2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 ディズニー最新作にして、ドナルド・グローバー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)とビヨンセという共にグラミー賞受賞経験のある二人が主要キャラクターの声を担当することが決定しているリメイク実写版『ライオン・キング』は、映画ファンやディズニーファンのみならず、音楽ファンからも注目を集めている。

 今回サウンドトラック製作にも大きく携わっているビヨンセは「本作で私たちはある種の独自ジャンルを創り出した。あなたの心の中で視覚的なイメージが湧きおこるような楽曲ばかり」「それぞれの曲が映画のストーリーを物語っている。だからこそ、この作品におけるサウンドスケープ(音景)は“音楽を超えた何か”なの」とコメントしている。オリジナル・アニメ版の主題歌を手がけ、リメイク版でも参加しているエルトン・ジョン自身が「オープニングを少しだけ観たけれど、実に素晴らしかった」と太鼓判を押している本作に期待が高まる。

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