『きみと、波にのれたら』不完全な者たちの等身大の姿 湯浅政明監督作にある“対比構造”を紐解く

 そして『夜明け告げるルーのうた』と本作を比べた時、自然災害への言及があるように感じられる。特にルーの場合は海辺にある町が増水した海に飲み込まれていく姿を描いているものの、その描写はとても優しく人魚の助けもあって人が悲劇的に亡くなる様子を描かなかった。人魚になる=死を迎えると受け取れる描写もあるものの、決して不幸なことではないと受け取れるように描かれている。

 本作においてもそのような目線は健在だ。日常に唐突に起こる海難事故によって残されてしまい、呆然とするひな子の姿などはあまりに痛々しくて涙を誘うのだが、そこから立ち直ろうとする姿、そしてその死をどのように受け止めるのか? ということが描かれている。その描写の中には自然災害で家族や愛しい人が亡くなってしまった人々に対して優しく言及するような描写とも受け取れる。

 湯浅作品では努力する人や道に迷う人、大きな苦難に呆然とするしかない人たちへのエールが描かれており、多くの人に寄り添う物語となっている。特に今作は物語もストレートな作品となっており、多くの観客に届く作品となっているため、是非とも劇場での鑑賞をオススメしたい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
『きみと、波にのれたら』
全国公開中
監督:湯浅政明
脚本:吉田玲子
音楽:大島ミチル
出演:片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
アニメーション制作:サイエンスSARU
配給:東宝
(c)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会
公式サイト:https://kimi-nami.com/
公式Twitter:https://twitter.com/kiminami_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie

関連記事