吉高由里子の笑顔をもう一度 『わたし、定時で帰ります。』最終回目前に直面した“最大の問題”とは

 そのため8話までコツコツと結衣が変えてきた、「自分らしさを肯定し、かつ互いを思いやることのできるいいチーム」は、福永によって、自分らしさを肯定されたからこそ自ら率先して働き、互いを思いやるからこそ結衣や種田に負担をかけず自分たちが頑張るという自己犠牲精神で自ら率先してサービス残業にひた走ることになる。それを見かね、さらに種田のことを心配する結衣が残業に走るという、まさに「地獄」が出来上がってしまうのである。

 「皆がやってるのに僕だけやらないわけにはいかない」「皆で力を合わせれば何だって乗り越えられる」。9話で行き着かざるを得なかった精神論は、まさに日本人の精神における病巣そのものだろう。古い価値観を否定し、新しい価値観に基づいた働き方を実践する、爽やかで新しいドラマは、ものの見事に、日本の会社がそう簡単にはうまくいかない最大の問題に行き着いた。

 放送開始前の番宣で向井理が「このドラマは極端な悪者がいないドラマだ」と言及していたのが印象に残っている。誰も悪者じゃないからこそ、誰かを取り除けば解決できるわけではない。種田という本来ならヒーローとして描かれてもおかしくない、性格含めて非の打ち所もない完璧な存在が、会社や彼に憧れる人たちを狂わせてしまうことも描かれているように。

 だからといって「人間そんなに簡単には変われない」とヒロインがわかっている以上、人も会社も社会もそんなにドラマチックに変われない。今までの働き方を全否定し、新しい働き方にすぐに適応することができるかというと、そういう訳ではない。結衣もまた、父親と同じ働き方をする種田を選ばずに、諏訪を選ぶことはそう容易なことではないらしい。このドラマはここにきて、そんな切実で現実的な問題を提示してきた。

 それなら結衣はどう動くのか。上海飯店で美味しそうにビールを飲む結衣の弾けんばかりの笑顔をもう一度見たい。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
火曜ドラマ『わたし、定時で帰ります。』
TBS系にて毎週(火)22:00~放送
原作:朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』シリーズ(新潮社刊)
出演:吉高由里子、向井理、中丸雄一、柄本時生、泉澤祐希、シシド・カフカ、内田有紀、ユースケ・サンタマリアほか
脚本:奥寺佐渡子、清水友佳子
演出:金子文紀、竹村謙太郎
プロデューサー:新井順子、八尾香澄
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watatei/

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