吉岡里帆の繊細な“一人二役” 『パラレルワールド・ラブストーリー』で静かに新境地へ

 その彼女のキャリアを遡ってみると、初期には小劇場演劇や、自主制作映画といったところでの活躍が目立つ。ここで、作り手と演者との、うまい距離感なども体得したのではないだろうか。「演じる」ということの下地はもちろん重要だが、演劇や映画といったクリエーションには、協調性が不可欠である。現在の吉岡へのラブコールが鳴り止まない実情を鑑みると、そのあたりの評価も高いことがうかがえるのだ。

 吉岡はNHKの連続テレビ小説『あさが来た』で注目を集めると同時に『ゆとりですがなにか』(2016/日本テレビ系)で民放連続ドラマに初レギュラー出演。『カルテット』(2017年/TBS系)でインパクトを残すとその後、『ごめん、愛してる』(2017/TBS系)でヒロインを務め、『きみが心に棲みついた』(2018/TBS系)で連続ドラマ初主演を務めている。このほんの数年での彼女の活躍ぶりを振り返れば、それは大躍進としか言いようのないものだということが分かる。作品を見るだけでは判然としないが、“はんなり”とした声や表情とは裏腹に、よほどのハングリー精神の持ち主なのではないだろうか。そんな彼女の度胸の大きさは、笑福亭鶴瓶がゲストを迎えて即興ドラマを繰り広げるバラエティ番組の舞台版、『スジナシ BLITZシアター』でも確認することができる。

吉岡里帆『健康で文化的な最低限度の生活』(c)関西テレビ

 しかしながら、『健康で文化的な最低限度の生活』(2018/カンテレ・フジテレビ系)や『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』(2018)といった作品で演じた、頼りがいのない、自信のないキャラクターにはいまいちハマりきれていない印象があった。というのも、彼女の快活で滑らかな発話は、どうしてもその手のキャラクターと上手く結びついていなかったように思えるのだ。もちろん、裏を返せば発話が美しいというのは役者として素晴らしい。発話の技量の良し悪しは、そのまま役者としての評価にもつながる。これに関しては、やはり演出の問題なのだろうか。

 しかしこれらの演技で、力のある女優だという思いを強くさせられたことに異論はない。そして『パラレルワールド・ラブストーリー』では、彼女の演技の下地に、先に触れたような繊細さもが加わっている。静かに歩みはじめた、吉岡里帆の新境地だろう。今後も彼女の出演作の公開が続くが、本作での好演によって、それらがますます楽しみなものとなるに間違いない。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter

■公開情報
『パラレルワールド・ラブストーリー』
5月31日(金)全国ロードショー
出演:玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太、筒井道隆、美村里江、清水尋也、水間ロン、石田ニコル、田口トモロヲ
原作:東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』(講談社文庫)
監督:森義隆
脚本:一雫ライオン
音楽:安川午朗
主題歌:「嫉妬されるべき人生」宇多田ヒカル(Epic Records Japan)
企画・配給:松竹
(c)2019「パラレルワールド・ラブストーリー」製作委員会 (c)東野圭吾/講談社
公式サイト:http://www.parallelworld-lovestory.jp/

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