『夏目友人帳』『となりのトトロ』など日本アニメ映画が中国で相次ぐヒット その社会的背景とは?

 近年、日本のアニメ映画が中国映画市場でヒットしていることがしばしばニュースになる。

 2015年に『STAND BY ME ドラえもん』が公開、2016年には『君の名は。』、その後も『劇場版 ソードアート・オンライン』『夏目友人帳』『となりのトトロ』など、新旧の作品が公開され、中国内の週間興行収入ランキングに顔を出している。

『君の名は。』(c)2016「君の名は。」製作委員会

 この結果に当初驚いた人も多かったようだが、中国における日本アニメの需要の高さと、現在の中国の映画市場の大きさを考慮すれば、真っ当な配給ルートが確保された今、これくらいの数字が出るのは驚くことではない。元々、日本アニメのポテンシャルはこれぐらいあったのだ(とはいえ、95億円の興行収入を叩き出した『君の名は。』ですら、年間のトップ10には入っていない。それほど中国の映画市場は巨大だ)。むしろ、中国の国産アニメーションの質が向上した現在よりも2000年代の方が、日本アニメの興行ポテンシャルはもっと高かったかもしれない。

 中国における日本アニメの需要の歴史はそれなりに長く、現在の興行力も一朝一夕で築かれたわけではない。非常の大きな紆余曲折と、関係者の不断の努力、厳しく政府に統制されている市場が開放されつつあるという追い風を受けての結果だ。

 この記事では、日本のアニメは中国でどのように受容されてきたのかを振り返り、今後の日中アニメの展望も検討してみたい。

日本アニメの中国史

 中国における日本アニメの流通が本格的に始まったのは、1980年代からだ。

『劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~』(c)YUKI MIDORIKAWA,HAKUSENSHA/NATSUME YUJIN-CHO Project

 1926~1966年までの間、中国のアニメーション業界は「黄金時代」と呼ばれ、数多くの優れたアニメーションを製作していた。終わりの年の1966年は言わずと知れた文化大革命の始まった年だが、この時、ほとんどのアニメーション制作スタジオは閉鎖に追い込まれてしまった。文革が終了しても、一度断絶した文化はそう簡単には取り戻せず、中国アニメは長い低迷期に入った(※1)。

 中国で日本アニメが放送されたのは文革終了の数年後からだ。中国国営放送(CCTV)で1980年12月7日に放送開始された『鉄腕アトム』に始まり、1983年の『一休さん』も高視聴率を記録。80年代は中国におけるテレビの普及期で、ケーブルテレビも相次いて開局され、多くの日本アニメが放送されることとなった(※2)。

 日本アニメが本格的にブームになったのは、90年代に入ってからだ。『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』『セーラームーン』『ドラえもん』『スラムダンク』などがこの時期に放送され、中国の若者の心を捉えた。

 とりわけ『スラムダンク』の人気は凄まじかったそうで、中国内のバスケットボール人口を飛躍的に高める原動力となったとも言われている。江ノ電の鎌倉駅高校前の踏切は、中国人にとっての「聖地」となっており、多くの観光客が訪れている。遠藤誉氏の著書『中国動漫新人類 日本のアニメ・漫画が中国の若者を変えた!』によれば、当時の若者にとって「『スラムダンク』は青春の教科書」と呼ばれていたそうだ。

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