ジェイソン・モモアの魅力が爆発 絶対に観客を飽きさせない『アクアマン』の豪快さと緻密さ

 更には、物語中盤の、シチリア島でのアクションシーンがとにかく素晴らしい。ブラックマンタ率いるアトランティス兵士との乱戦が繰り広げられるが、戦況は大きく、「アクアマンvsブラックマンタ」「メラvsアトランティス兵士」に分類されていく。同じロケーションでふたつの戦いが描かれるのだが、それぞれのマッチをワンカット内でシームレスに切り替えて進行していくのだ。驚くほどの、位置関係描写の的確さ。

 アクアマンに対しジェット噴射で上空からの攻撃を仕掛けるブラックマンタと(縦軸)、屋根づたいに集団でメラを追いかけるアトランティス兵士(横軸)。その味が巧妙に差別化された縦横のアクション構成は、シチリア島の街並みを存分に活かしつつ進行していく。随所に挟まれる人助け描写や、パルクールのような画の動き、コメディチックなやり取りなど、しっかり計算された緩急が見応えを生み続ける。一連の見事なまでの画面構成には、思わず唸ってしまった。

 他にも、あまりに鮮やかな回想シーンへの切り替えなど、全編を通して、ジェームズ・ワン監督の丁寧な配慮を感じる作品であった。

 豪快に思えて、その実、緻密に。壮大なスケール感で圧倒しつつ、クレバーな組み立てで観客の心を誘導する。「海」が、我々が生きる地球を母のように包み込みながら、同時に1,000万種以上の生物が共生する複雑な環境であるように、『アクアマン』という作品は、その一見相反する魅力を見事に共生させているのだ。大きさに思わずのけ反ったり、計算されつくされた神秘性に身を乗り出したり。まるで「海」のように、寄せては返し、観客の心理を楽しく翻弄していく。

 そして、主人公であるアクアマンことアーサーも、まさに「海」のような男である。豪快に酒をあおり、闊達な様を見せたかと思えば、陸の世界に関心を向けるメラを優しく導こうとする。一緒に薔薇を口にするあのマッチョな紳士ぶりは、柔も剛も兼ね備えた彼の大きな魅力だ。

 海は、陸があってこそ海。そして陸は、海があってこその陸。陸の世界に攻め入ろうとする異父兄弟のオーム王に対し、アクアマンは、海も陸もないんだと、強い眼差しと共に手を差し伸べる。自分自身が、その双方があってこそ生を受けた混血の存在であり、そんな彼だからこそ、ふたつの世界を包括する架け橋としての「ヒーロー」になれるのだ。一国の王ではなく、全てを救う英雄として、まさに「海」のごとき壮大な器でもって作品そのものを牽引する。何よりの主人公の魅力の強さが、本作の一番の魅力であろう。

 奇しくも「王家モノ」として、今日のアメコミ映画界を牽引するMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の『マイティ・ソー』や『ブラックパンサー』とも似た構造を持つ本作。様々な映画ジャンルを内包していくマーベルに対し、DCは、あくまでアメコミ作品としての直球さを忘れない。ザック・スナイダー監督が『ジャスティス・リーグ』までに作り上げた、本ユニバース特有のトーンや語り口、決めのカットにおける一枚絵のような美しさを踏襲しながら、主人公の豪胆さで作品全体の風通しをぐっと良くする。

 『アクアマン』は、DCEUのブレイクスルーと位置付けても過言ではない。アメコミ作品の面白さと可能性を誰よりも作り手が信じている、そんな「気持ちの良い」作品に仕上がったと言えるだろう。続く『シャザム!』や『ワンダーウーマン1984』(邦題未定)にも期待が膨らむところである。

■結騎了
映画・特撮好きのブロガー。『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『週刊はてなブログ』等に寄稿。
ブログ:『ジゴワットレポート』Twitter

■公開情報
『アクアマン』
全国公開中
監督:ジェームズ・ワン
出演:ジェイソン・モモア、アンバー・ハード、ニコール・キッドマンほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved” “TM & (c)DC Comics”
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/aquaman/

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