『蜘蛛の巣を払う女』にみる、『ミレニアム』映画シリーズの真価

 アメリカで制作された『ミレニアム』映画シリーズ第2作にして、監督、出演者ともに刷新された『蜘蛛の巣を払う女』。原作に思い入れのあるファンも多く、また前作で主演を務めたルーニー・マーラが注目を浴びるなど、話題となっていたシリーズだけに、今回の出来栄えについては、観客の側で様々な反応を生んでいるようだ。

 果たして本作『蜘蛛の巣を払う女』はどうだったのか? 作品の背景や、本作ならではの特徴を分析しながら、『ミレニアム』映画シリーズ全体についても考えていきたい。

 ベストセラーとなったミステリー小説シリーズ『ミレニアム』の第1部を映画化した『ドラゴン・タトゥーの女』(2011年)は、同じようにベストセラーになったミステリー小説を原作とした映画『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)の世界的な大ヒットという成功例があるので、制作側の期待が集まっていたはずである。監督にデヴィッド・フィンチャー、主演の一人に、他方でジェームズ・ボンドを現役で演じているダニエル・クレイグを迎えるなど、力の入れ具合が伝わってくる企画だった。しかし興行収入は思ったほどには伸びず、作られるはずの続編企画は一時頓挫することになった。

 『ドラゴン・タトゥーの女』は、フィンチャー監督らしい尖った映像と、皮肉のきいた演出が見どころだが、原作小説自体は基本的には娯楽的なミステリーとしてクラシカルな楽しみ方を想定している部分があったため、ここでのフィンチャー演出は過剰でアンバランスなものになった印象がある。フィンチャー監督は、その後の作品『ゴーン・ガール』 (2014年) ではその問題を修正し、より抑えた制作費でヒットを達成している。

 とはいえ、『ドラゴン・タトゥーの女』には、いままでにない新しい試みも存在し、多くの観客の心をつかんだ部分もある。最も支持されたのは、ルーニー・マーラが演じた“リスベット・サランデル”というキャラクターの新鮮さだ。ゴシック・パンク風の、黒いレザー・スーツに奇抜なモヒカンヘア、顔にいくつも刺さったピアス、そして背中に彫られたドラゴン・タトゥーなど、我が道を行くファッションが特徴で、その優秀な頭脳とハッカーとしての能力、父親に虐待を受けたという自身のトラウマ(精神的外傷)によって、女性を虐げる男性に凄まじい制裁を加えていくシーンのインパクトは凄まじかった。またルーニー・マーラのはかなげに見える顔のつくりとのギャップによって、さらに危うい魅力が高められてもいた。

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