坂元裕二、野木亜紀子らに続く脚本家に? ヤングシナリオ大賞『ココア』14歳・鈴木すみれの実力

 秀逸だったのは、自分の名前も素性も隠し、あくまで友人の“灯ちゃん”の話として、自身が受けたいじめや自殺未遂の体験を雄介に話してきた灯が、雄介に“灯ちゃん”が自分自身であることを見破られた後も、「灯じゃないよ」ときっぱり否定したところ。自分の不遇を認めたり、容易く誰かに甘えられたら、10代という季節はもっと楽なはずだ。でも、それができないから10代は苦しい。そんな青春期の潔癖で複雑な心理を、決して痛々しい強がりではなく、16歳の少女の誇りと逞しさとして描けていたところに共感が持てた。

 また、援助交際をしようとする灯を、雄介がミュージシャンらしくバースデーソングを熱唱して引き止めるのもナイスアイデア。クライマックスで再会したふたりが、つながっていない携帯電話越しに近況を語り合うところも、スマホ世代らしい“エモい”描写だろう。

 両親が不倫していることを知っている香が、誕生日プレゼントに何がほしいと聞かれ、「離婚してください」と切り返すのも巧みだ。また、自身がいじめをする側だった志穂の抱える悔恨を化石に見立て、化石を発掘する作業を通じて、自らの奥底に封印していた過ちを告白するというくだりもよく練られている。しかも、掘り起こした化石が偽物で、それを川に放り投げることで、志穂が過去と決別を果たすというのもシンボリックで清々しかった。

 総じて台詞はこなれており、3人のヒロインの心模様をいくつかのモチーフに見立てながら表現する手法の鮮やかさに、作家としての魅力を感じた。

 ひとつだけ残念なことを述べるとすれば、いじめ、不倫、自殺未遂など少女たちを取り囲む題材に目新しさを感じなかったところ。もちろん今もなおこうした問題は女子高生にとって切実で今日的なものなのだろうけど、これまで様々な創作で取り上げられた内容であり、その取り扱い方にもう少しハッとする独自性や先進性がほしかったのが正直なところ。香の両親の不倫の描写については作者の年齢を考慮すれば大人びているとも言えるが、年齢を抜きに考えるとやや古典的でステレオタイプにも見えた。

 だが、見方を変えればそれも伸びしろということ。14歳の鈴木すみれがここからさらに発想力と着眼点を磨き、オリジナリティのある切り口で時代を切り取ったとき、日本のテレビドラマはもっと面白くなるかもしれない。そんな期待を抱かせる新春の1本だった。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。人生で一番影響を受けたドラマは野島伸司の『未成年』。Twitter:@fudge_2002

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