『来る』評価二分の理由は“二つの先進性の絡み合い”にあり? 中島哲也監督の作風から探る

『来る』評価二分の理由は?

 本作はホラーでありながら謎解きミステリーの要素もある。ミステリーの定型として、ある事件があり、それが起こる原因や人間ドラマがあり、そこに名探偵のような存在が現れ、事件が解決されるとともに人生について考えさせる。そのようなオールドスタイルに、表面上は則った作品であるといえる。だが、そういう作品は楽しみ方が分かりやすい分、限定されたテンプレートに収まる、想定内のものになりがちである。その種の作品で最も不満なのは、事件に対する解決役の態度が、どうしてもルーチンワーク的で、物語から除外された立場になりやすいということだ。

 その点、本作はそのポスターの構図が象徴するように、登場人物全員を上から眺めるような視点で進行することで、全員を感情移入させ過ぎない、どこかに不可解な部分を持った存在として並列的に配置している。それは、たとえ解決役であっても、どうしても人間の限界から脱することができないという、じつは物語の内容に則した演出にもなっている。

 本作は、そういう意味で枠から外れたアプローチをする新しさを獲得しているといえよう。それだけに、楽しみ方が分かりづらいのも確かで、そのことが「ヴィジュアルだけの監督」だと一部で思われていることと相まって、ただ空疎な作品だと誤解されるという不幸さを持っているのだ。評価が割れるというのは、つまりはここで述べた、二つの先進性が絡み合うことで発生していると考えられる。

 だが、多くの映画やドラマにおける、決まりきった楽しみ方に飽き飽きしている観客からすると、本作のようなものこそ楽しめるはずである。娯楽性を捨ててアートに走るというわけでなく、予算をかけた娯楽作のなかで、常に新たな挑戦をする。それは、かつてまだ経済的に豊かだった頃の日本映画ではよく見られていた傾向だ。いまではこういう映画は、貴重な存在になってしまっているのだ。だから中島哲也監督作には、そういう意味での懐かしさもまた感じるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『来る』
全国公開中
監督・脚本:中島哲也
企画・プロデュース:川村元気
原作:澤村伊智『ぼぎわんが、来る』(角川ホラー文庫刊)
出演: 岡田准一、黒木華、小松菜奈、松たか子、妻夫木聡、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、蜷川みほ、伊集院光、石田えり
製作プロダクション:東宝映画、ギークサイト
配給:東宝
(c)2018「来る」製作委員会
公式サイト:http://kuru-movie.jp/

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