涙堪える松田龍平を笑顔にしたもの 『獣になれない私たち』が描く“他者と生きていくこと”

 天災も、人災も、病も、老いも、死も。逃れられない自然的な力を前に、自分なりになんとか心の整理をしながら生きていくしかない。だが、一気に流れ込んできた理不尽な怒りや悲しみは、ときに楽しい記憶さえ色褪せさせ、夢やワクワクが入り切らないほどに膨れ上がる。心のキャパは圧迫され、余裕のなさから連鎖的な理不尽を引き起こす事態にもなりかねない。失踪していた陽太も、元彼氏・京谷(田中圭)の家に引きこもった朱里(黒木華)も、もはや1人で抱えきれなくなって、どこから整理したらいいのかわからなくなっていたのだろう。おそらく、第1話の晶も。

 誰かに一度、感情を預けること。そのキャパの共有こそが、私たち人間が手に入れた知恵かもしれない。橘カイジ(飯尾和樹)が作るゲームだったり、タクラマカン斎藤(松尾貴史)が経営するバーだったり、そして脚本家・野木亜紀子が紡ぐドラマや、それについて語り合うSNSだったり。きっと私たちにはどんな形であっても、抱えきれない何かを一旦置く空間が必要なのだ。

 もちろん、そこではうまく伝えられない人が、ビールをぶっかけてくることもあるかもしれない。さっきまで怒ってた人が、のんきにラーメンをすすっている姿に肩透かしをくらうこともあるだろう。いつだって、人間はわかり合えないのが自然なのだから。人生の不条理は決してなくならないけれど、コントロールできないものへの怒りや悲しみに支配されるより、抱えきれない何かを一緒に背負ったり、更地になった心に何かを一緒に築いてくれる存在に感謝しながら生きていこう。「ゲームなんて」と言っていた恒星が、晶と思い出のボードゲームで笑顔になる姿を見てそんな気持ちになった。

(文=佐藤結衣)

■放送情報
『獣になれない私たち』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜放送
出演:新垣結衣、松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治
協力プロデューサー:鈴木亜希乃
制作会社:ケイファクトリー
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kemonare/

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