『SUITS/スーツ』は月9史に何を残すのか? 織田裕二が演じてきた“ヒーロー”とともに考える
「その喪服だけど、二度とそんな安物は着てくるな」と言って、甲斐正午(織田裕二)は、鈴木大貴(中島裕翔)にスーツ代を渡す。10月8日に放送された『SUITS/スーツ』(フジテレビ系)第1話での一幕である。『踊る大捜査線』(フジテレビ系)の青島俊作の着こなしを見て、甲斐は一体何と言うだろうか?
主人公の甲斐正午は、敏腕のエリート弁護士なだけあって、服装に限らず立ち居振る舞いに至るまで洗練されている。連続ドラマでは『振り返れば奴がいる』『踊る大捜査線』『外交官 黒田康作』(いずれもフジテレビ系)、『IQ246〜華麗なる事件簿〜』(TBS系)など、広い意味でのヒーローを数々演じてきた織田裕二であるが、甲斐正午もまた、そんな織田が主演を務めた作品史に刻まれるキャラクターとなりそうだ。
ただ、織田裕二が演じる主人公と言っても実に様々だ。例えば、『振り返れば奴がいる』では石黒賢が演じる外科医・石川と、『踊る大捜査線』では柳葉敏郎が演じる警察庁の室井と、それぞれのドラマの中で織田が演じるキャラクターは対立してきた。ただ、今回の『SUITS/スーツ』では、上司の幸村(鈴木保奈美)から仕事のことで口を挟まれたり、同僚の蟹江(小手伸也)からライバル視されたりはするものの、いわば、“同僚や組織の人間と対立する”タイプの織田裕二は、第1話の時点ではあまり見受けられなかった。
むしろ甲斐はどこかクールで、余裕を感じさせる。弁護士として幾度となく困難を潜り抜けてきた自負もあるのだろう。あからさまに自分の弱さを出さない。確かに第1話で、甲斐は重要なメールを隠蔽したことで、一時、弁護士の世界にいられなくなるかもしれないというピンチに遭遇した。それでもどうにか、使える人間や情報を駆使することで、巧みに修羅場をくぐり抜けた。あまり多くのしがらみは持たずに、ひょうひょうとしている主人公で言えば、『IQ246』の法門寺沙羅駆もそうだった。沙羅駆もまた、宿敵のマリア・T(中谷美紀)との対決で追い込まれることはあったが、警察が取り扱う事件はあくまで“退屈しのぎ”として次々に解決していく。どちらの作品でも、青島のようにヨレヨレの服装で汗水流し、時に泥臭く駆け回るような“ヒーロー”ではなかった。「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」というのは、青島俊作がフジテレビの映画史に残した名言の一つであるが、“現場”であくせく奮闘する織田裕二とはかけ離れた姿も、長年のキャリアを感じさせ、貫禄たっぷりだ。