『2001年宇宙の旅』70mm上映はどう実現した? 国立映画アーカイブに聞く、その背景と役割
スタンリー・キューブリック監督作『2001年宇宙の旅』の70mm版特別上映が、10月6日より東京・国立映画アーカイブにて行われる。『2001年宇宙の旅』製作50周年を記念して、クリストファー・ノーラン監督の協力の元、公開時の映像と音の再現を追求して作成された70mmニュープリントが、今年5月に開催された第71回カンヌ国際映画祭クラシック部門での初お披露目、欧米での上映を経て、ついに日本に上陸する。
前売り券が販売されるやいなや、ものの数分で完売し、早くも追加上映を望む声が上がっている本企画。今回リアルサウンド映画部では、本上映を主催する国立映画アーカイブの主任研究員・冨田美香氏にインタビューを行い、上映実現までの道のりや、本上映の見どころについて話を聞いた。
「これをきっかけに、70mmで作品が観られる場所を」
ーーまずは『2001年宇宙の旅』70mm版の日本での上映が決まった背景を教えてください。
冨田美香氏(以下、冨田):今回の上映は私たち国立映画アーカイブとワーナー ブラザース ジャパンさんとの共催となります。今年の5月半ばにワーナーさんに共催のご相談に行きまして、そこから実現に向けて話が進んで行きました。なので、企画を持ち掛けたのはこちらですが、プリントの手配はワーナーさんにやっていただきました。
ーー日本の映画ファンが待ち望み、非常に期待を寄せている企画だと思います。チケットも即日完売となりましたが、その反響を受けていかがですか?
冨田:怖いぐらいうれしい反響でした。感じることは、大きく分けて2点あります。まず、70mmフィルムでの上映を今まで観たことがない世代の方々も、かつて観ていた世代の方々も、今70mmフィルムで観ることの意義を理解し、盛り上がってくださっているなというのがひとつです。それと、『2001年宇宙の旅』をスクリーンで観たことがなく、とにかくスクリーンで観たいという方々もたくさんいらっしゃる。今回はこの2つの波が押し寄せたという印象です。
ーーコアな映画ファンのみならず、ライト層も巻き込んだ盛り上がりが起きている印象です。
冨田:やはり『2001年宇宙の旅』という作品は、名前は知っていても観たことがないという方も含めて広く認知されていますよね。今回は、特別な70mmプリントなので、そういう意味では、70mmを観たことがある人にとっても特別な、70mmを観たことがない方には、70mmを観る“体験”として感じていただきたいです。これをきっかけに、70mmやフィルム上映はもちろん、映画館で映画を観ることの魅力を知ってもらえればいいなと思います。
ーーフィルム上映を広める目的でもあるんですね。
冨田:そうですね。上映素材やあり方に関心を持ってもらいたいと思います。例えば新作映画でも、海外では70mmで上映されたものがあるのですが、日本ではあまりそういった情報は紹介されませんよね。最近の作品だと、『ファントム・スレッド』『オリエント急行殺人事件』などは、欧米では70mm上映もされていたんです。今回の企画をきっかけに、当館だけではなく70mmで作品を観られる場所ができてくれるといいなと。
ーー70mmを上映できる映写機は日本ではこの施設にしか残っていないと聞いたことがあるのですが……。
冨田:当館では2014年に映写機を替えたのですが、1995年にこの建物ができた当時から使用していた映写機も、35mmと70mmの両方を映写できる兼用機だったのです。ただ、最近まで70mm映画を企画として上映をしたことはありませんでした。
ーー昨年行われた黒澤明監督の『デルス・ウザーラ』の70mm上映まではしたことがなかったと。
冨田:はい。各地の劇場やホールに残っていた70mm映写機がデジタルプロジェクターに置き換えられたり廃棄されていく中で、『ヘイトフル・エイト』や『ダンケルク』の公開時には、欧米で70mm映写機を新たに設置して上映する流れがあったのですが、日本からは手が挙がらなかったようです。その状況を見て、少なくとも当館はできるようにしようと、当館の技術者やフィルムの専門家たちに力とエネルギーを注いでもらって、1年くらいかけていろいろと体制を整えました。去年の『デルス・ウザーラ』70mm上映は私たちにとって“一歩目”でした。今回の上映で、興行的に成り立ちそうなことがわかって、後に続いてくれる人が出てきてくれたらいいなと思ってます。
ーー日本で70mm映写機が再設置されないのはなぜなのでしょう?
冨田:設備導入という点で費用面の問題はもちろんあると思いますが、映写室に機材を置くスペースがあるかどうか、機器メンテナンスをできるかどうか、新作も含めて70mmフィルムを調達できるかどうか、というのが大きな問題な気はします。ただ、当館で今なんとかできていますし、今回の反響を見ると、500人くらいの大きなスクリーンで皆で一緒に観るなんてことも成り立つのではないかと思います。せっかく海外から重いプリントを空輸するわけですから、『2001年宇宙の旅』公開当時のように、東京と関西の2か所でできるともう、映画ファンとしては夢のようですよね。