古い価値観を感じさせるも映画の作られ方は“現代的” 『スカイスクレイパー』の作品構造を読み解く

 「ロック様」ことドウェイン・ジョンソンが演じる、筋肉ムキムキの一家のパパが、家族を救うために超高層ビルで決死の戦いを繰り広げる映画、『スカイスクレイパー』。幅広い層の観客が楽しめる、分かりやすい「王道アクション」、「ブロックバスター」作品だ。80年代を中心によく見られた、良く言えば「豪快」、悪く言えば「大味」な懐かしさをも漂わせている。

 この、いうなれば古い価値観を感じさせる作品が、近年を代表する“現代的な”映画の作られ方をしていると言ったらどうだろうか。ここでは、数々の映画の描写を思い出させる『スカイスクレイパー』の作品構造を読み解きながら、現在の映画の状況をも考えていきたい。

 本作の主人公である、かつてFBI人質救出部隊のリーダーだったウィル(ドウェイン・ジョンソン)は、ある事件で人質救出に失敗し、自分の片脚まで吹き飛ばされ、義足をつけることになる。彼はFBIでの仕事を続ける気力を失って退職し、その後セキュリティー・システムに携わる職に就いていた。そして香港にある、高さ1000メートル、240階建ての世界最高層のビル「ザ・パール」のセキュリティーを、オープン前に調査することを依頼され、家族とともに、そのビルの一室に滞在することになる。

 あるとき、「ザ・パール」をテロリストたちが突如として占拠し、計画された火災を発生させる。たまたまウィルは外出していたが、彼の妻や2人の子どもたちは火災現場の数階上の部屋にいたため、階下に降りられないでいる。このままでは愛する家族が…! さらに何者かの陰謀によって指名手配犯に仕立て上げられていたウィルは、追っ手や警察の手を逃れながら、家族が閉じ込められたビルに潜入するため、鉄骨で作られたタワーをよじ登り始め、ついに決死の大ジャンプを敢行することになる。

 ここまでの設定を紹介するだけで分かるように、本作は高層ビル火災を描いたパニック映画『タワーリング・インフェルノ』(1974年)と、刑事が1人だけで高層ビルを占拠したテロリストたちと戦うアクション映画『ダイ・ハード』(1988年)を掛け合わせたような内容だ。この二つは「超有名作品」であるため、映画の根幹部分をそれらに頼ることは安易だという批判的意見が、とくにアメリカの批評家から多く出されているようだ。

 引用されているのは、それだけではない。最新のディスプレイに囲まれた展望台が登場するシーンは、『燃えよドラゴン』(1973年)に登場する、鏡に囲まれた謎の部屋を想起させ、外壁を移動する箇所では、高層ビル・アクション映画のクラシック『ロイドの要心無用』(1923年)を基にしたと思われる『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011年)で話題になった、ブルジュ・ハリファでのクライミングを思い出させる。細かいことを言っていけば、他にもこのようなシーンはある。興味深いのは、ここまで大規模な映画作品において、これら分かりやすい引用が後ろめたさもなく露骨に使用されているという点だ。

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