『ワンダーストラック』トッド・ヘインズが語る、リスク覚悟で聴覚障害の子役を起用した思い

ーーローズ役のミリセント・シモンズは実際に聴覚障害者ですよね。障害者の役を実際に同じ障害のある役者が演じることにも意義があったと思います。

ヘインズ:ミリーは人として素晴らしくて、自分の感受性と熱意をこの役にもたらしてくれた。ローズの役を聴覚障害のある子供に務めてほしいというのは僕の最初の望みだった。ただ、そうすると映画の演技経験がない人になってしまうというリスクはあったよ。それでも僕はあえてそのリスクを選んだ。そして出会ったミリーは、カメラの前で、キャラクターのニュアンスとかちょっとした仕草を自然にできる子だった。これは人から教えられるものでは全くなくて、彼女がもともと持っていた素質だったんだ。素晴らしい体験だったね。

ーーアメリカでは、障害のある俳優の起用率の低さが問題視されているそうですね。

ヘインズ:今回で言えば、ジュリアン・ムーアが演じたリリアン・メイヒューの役も聴覚障害者に演じてほしいと言う声も少しあったんだ。でもジュリアンは、この役のために聴覚障害のコミュニティーやカルチャーと真摯に向き合ってくれて、彼女の演技指導をしたトレーナーは一切言葉が話せないのだけれど、ジュリアンはすべて手話でやり取りするほど真剣だった。映画の場合、製作費を集めるために有名な役者を配役しなければならない点もあるのだけれど、今生きている中で最も素晴らしい役者の1人であるジュリアンを起用することに迷いはなかった。作り手としては、すべてのジェンダーやマイノリティー、アイデンティティーをしっかり考慮した上で表現しなければいけないと意識しているよ。

(取材・文・写真=阿部桜子) 

■公開情報
『ワンダーストラック』
角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督:トッド・ヘインズ
脚本・原作:ブライアン・セルズニック
出演:オークス・フェグリー、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズ、ミリセント・シモンズ
配給:KADOKAWA
(c)2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC
公式サイト:http://wonderstruck-movie.jp

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